平井卓也 内閣府特命担当大臣(クールジャパン戦略、知的財産戦略、科学技術政策、宇宙政策)
2018年10月の就任以来、精力的に国内外の研究機関やイノベーション拠点などを訪問し、日本のデジタル化推進や、イノベーション創出に向けた取り組みの陣頭指揮を執る平井卓也内閣府特命担当大臣。イノベーションを興すには、デジタルな関わりだけではなく、まずは「現場」の人々が直接つながって生の情報を見聞きし、共有し合うことが重要だと説く。日本のイノベーション戦略が向かうべき方向性を伺った。
大臣が自らハブになる
HIRAI Pitchに込めた思い
デジタル化やグローバル化が加速する中で、イノベーションを興すにはどうすればよいか。平井大臣は、過去や現在の延長線上「present push」ではなく、願うべき未来像からバックキャストして新しいモノやコトを考える「future pull」の必要がある、と強調する。この姿勢は、平井大臣が2018年10月の就任以来、定期的に開催してきた「Pitch to the Minister 懇談会 “HIRAI Pitch”(以下、HIRAI Pitch)」にも色濃く反映されている。
HIRAI Pitchは、情報通信技術(IT)や宇宙開発など、注目分野の有識者を大臣室へ招き、平井大臣と産学官関係者の間でセクションを超えた情報交換の場を設ける取り組みだ。2018年10月24日の第1回を皮切りに、すでに46回も開催されており、さらに平井大臣が直接現場に赴く「地方版」も、福岡、渋谷、麻布、日本橋、つくば、大阪、名古屋、沖縄の8カ所で開催されている*1。
「HIRAI Pitchの大きな目的は二つです。一つは“現場の話を聞く”。今後、次の時代を迎えるに当たり、ポテンシャルを解放していかなくてはいけない分野の皆さんから、直接話を聞くこと。もう一つは“現場の情報をよーい、ドンで共有する”。各部局や若手の官僚の皆さんにも参加してもらい、発言や質問も自由というフラットな状況で、私(大臣)と共に現場の話を聞いて同時に情報を共有し、一緒に政策を考えていくことです」
つまり、現場を強く後押しできる政策を立案するために、官僚同士の「横のつながり」を強化する意図もある。
AIやIoT、バイオ、量子、宇宙といったさまざまな分野のキーパーソンによるピッチを間近で見てきたことで、「どの分野においても、若い人たちが果敢に挑戦をしている」という印象を深めている一方、全国を回って100名を超える有識者からヒアリングを行う中で、「国内全体のマインドセットが良い方向へ変化している」ことを実感しているという。
スタートアップ戦略の課題は
企業や組織の「つながり」の形成
イノベーションを創出しようという機運は全国規模で高まっているものの、HIRAI Pitchなどのアクションによって、かえって浮き彫りになってきた課題もある。
「最初のステップを踏み出すのが非常に難しいということです。アシストする人はいますが、まだボリュームが足りない印象があります。スタートアップには、アクセラレータなど、段階を追ってさまざまなサポートが欠かせません。メンタリングのような気付きや助言を与える存在も必要ですし、実際に事業を動かすには資金調達の課題もクリアしなくてはなりません。また、アシストを受ける前提として、社会的な信用の構築も必要でしょう」
他にも、人材の流動化や「つながり」の形成、政府・自治体の協力を促す必要性なども感じていると話す平井大臣は、こうした課題を踏まえたスタートアップ戦略を、「Beyond Limits. Unlock Our Potential. ~世界に伍するスタートアップ・エコシステムの拠点形成戦略~(中間取りまとめ)」として発表している。そこでは、地方のスタートアップが手掛ける優れた製品やサービスを地方自治体が試験的に購入し、普及を支援する「トライアル発注」制度の活性化など、具体的で踏み込んだ施策が目を引く。
また、企業や組織の「つながり」の形成については、HIRAI Pitchで地方へ出向いた際にも改善の余地を感じたと話す。
「確かにイノベーションに熱心なエリアはあります。ただ、エリア内やエリアを超えた情報共有が進んでいるかというと、そうとはいえません。各地を回って分かったのは、彼らのポテンシャルを解放するために、企業や組織、エリア間における横の連携や情報共有を助力する必要があるということです。そこで実際に、その場で必要な人材や技術を持っている民間企業、お金を出してくれる人たちにつなぐこともあります」
*1 2019年5月27日現在
「つながり」を生み出し続ける
仕組みとして「都市=場」をつくる
平井大臣はいま、今後のスタートアップ戦略には、拠点都市の形成や大学を中心としたエコシステムの強化や、教育面・育成面の充実が欠かせないと言う。その理由についてこう語る。
「日本は高いポテンシャルを持っているのに、どうして諸外国に負けるんだ、という思いがありました。そう思った時に、そういう人たち(起業家、スタートアップなど)の化学反応が起きるような“集積”を国として支援していく必要があるとの考えに至りました」
今後イノベーション創出のためのスタートアップ戦略の鍵を握るのが、「集積」や「場」の醸成、拠点都市の創出なのだという。
「シリコンバレーを見ても、知人同士のネットワークの中から価値の高いつながりが生まれています。結局、デジタルの世界のつながりだけではイノベーションは興せません。やはり“直接会って話をする”ことは非常に重要なんです。その意味でも、いま分散しているものを、ある一定のエリアに集積させていく必要があると考えています」

政治家として長年IT戦略に携わり、国務大臣就任後も現場の声を直接ヒアリングしてきた平井大臣は、デジタル技術では補いきれない「人と人とのつながり」を非常に重視している。その一環としてSlush*2 やInnovation Leaders Summit*3 に代表されるような、スタートアップやオープンイノベーションを加速させる大規模なイベントを定期的に開催し、日本にGoogle Campus*4 のようなシンボリックなスタートアップ拠点を設置する展望もあるという。象徴的な「場」をつくることで、グローバル展開を見据えたイノベーション創出を支援する狙いだ。
「皆さんのピッチを受けていると、日本の文化に根差したビジネスモデルが多く、世界市場をマーケットに考えているものが少ないことが気になります。特にシェアリングエコノミー系のサービスなどは、国内に閉じた構想が多いと感じています。今後、かつてのソニーやトヨタ、パナソニックのような企業が日本からどんどん出てくるためには、グローバルに展開できる構想であることが必須だと考えています」
「つながり」形成の強化には、当然、オープンイノベーションの推進も含まれる。昨年度、内閣府は国内のオープンイノベーションを推進するために「日本オープンイノベーション大賞」を設定、2019年3月5日に第1回の表彰式が行われた。今後のロールモデルとなるような先導性や独創性の高いプロジェクトに対して、内閣総理大臣賞や各省の大臣賞、団体賞が与えられたが、この取り組みについて、平井大臣は可能性を語る。
大賞を設定した思い
そこに寄せる期待
「私が(科学技術政策担当大臣賞として)表彰したのは、パナソニックからのカーブアウトで誕生したスタートアップ、『ミツバチプロダクツ』です。大企業の中に眠っていた技術や人材を切り出して、他の経営資源とつなぐことで事業を成功させる、こういった事例は今後もっと増えていくと思います。また内閣総理大臣賞を受賞した、弘前大学COI*5 を核に産学官民連携で推進する『超多項目健康ビッグデータで『寿命革命』を実現する健康未来イノベーションプロジェクト』は、ビッグデータを使って『寿命革命』を実現しようという取り組みですが、『官民データ活用推進基本法』を議員立法でつくった立場として、こういう事業が生まれるのは非常に喜ばしい展開だと感じています」
健康にまつわるデータは個人情報ということもあり、利活用しづらい側面がある。同プロジェクトでは、これを住民の健康診断を通じて収集・蓄積。健康ビッグデータとして研究者や企業に対して共有可能な情報としてオープンにし、ヘルスケアビジネスを生み出すシステムの構築に成功した。
「こうしたベストプラクティスが横展開され、あらゆる分野で予期せぬ組み合わせを生み出し、それが新しい価値につながっていく。そんな姿を想像しています」
今年度開催される「第2回 日本オープンイノベーション大賞」についても、「もっと人を驚かせるような、新しいイノベーションが出てきてくれたら」と、応募企業・団体にさらなる期待を寄せる。また、今回の受賞取り組み・プロジェクトを見ると、大学や国立の研究所が参加しているものも少なくない。オープンイノベーションというと、大企業とスタートアップの協業というイメージも根強いが、社会的なインパクトの強いイノベーションを興すには、学術機関や研究機関との連携は欠かせない。優れた研究者や技術者が組織の外に出て、適切なオープン&クローズ戦略のもとで新たなチャレンジを試みることは、オープンイノベーションの「基本的なセオリー」だと語る。
「日本では、大学は“学生が勉強する場所”という印象が強いかもしれませんが、海外では明らかに違います。“新しい価値を生んでいこう”“イノベーションを興そう”という意識が海外の大学には明確に存在します。だから民間からの資金も集まるのです。海外のイノベーション成功事例を見ても、中心に学術機関(=大学)があることが多い。日本も安定的にイノベーションを興し続ける環境をつくるために、このことを強く意識しておく必要があると感じます」
平井大臣によると、政府では、大学が有する潜在能力を生かし、若手研究者のモチベーションを高める支援、改革を行うための議論が重ねられているという。名実ともにイノベーション創出拠点としての地位を確立することができれば、日本の大学を取り巻く状況は大きく変わりそうだ。
*2 フィンランド発の世界最大級のスタートアップイベント
*3 毎年東京で開かれているアジア最大級のオープンイノベーションイベント
*4 Google が世界7都市(ロンドン、マドリード、サンパウロ、ソウル、テルアビブ、ワルシャワ、ベルリン)に設立しているスタートアップコミュニティーを活性化させる施設
*5 センター・オブ・イノベーション。文部科学省が2013年に定めた、全国18カ所の産学連携のイノベーション拠点。潜在する社会のニーズから10年後を見通し課題を設定、既存分野・組織の壁を取り払って解決に取り組む
「課題」に狙いを定めて
破壊的イノベーションを興す
さらに、より大胆な発想に基づく挑戦的な研究開発を、関係省庁が一体となって推進する「ムーンショット型研究開発制度」で、破壊的イノベーションを生み出そうとする取り組みも進めているという。
ムーンショットとは、1961年にジョン・F・ケネディ大統領が月面着陸を宣言し、1969年にそれを実現したことに由来する言葉で、「目指す未来から逆算して立てられた大胆な目標」といった意味合いを持つ。破壊的イノベーションは狙って興せるものではない。しかし、デジタル化やグローバル化の加速で、「成功確率を高める環境やプロセス」が、ある程度視野に入ってきた。破壊的イノベーションが興る確率が高まる中で、各国は相当な予算を投じてムーンショット型の研究開発を行おうとしている。
民間においてもその動きは活発だ。例えば、Googleの次世代技術開発を担う「X」や、スペインの大手通信事業者であるテレフォニカが立ち上げた「アルファ」は、まさにムーンショット型の研究開発を行う組織だ。日本では、ソフトバンクが無人航空機開発のAeroVironmentと設立した合弁会社「HAPSモバイル」を通じて展開するHAPS事業などがそれに当たるだろう。
成層圏に通信プラットフォームを構築するという革新的な取り組みで注目を集めるHAPSモバイルは、Googleの親会社であるAlphabetの子会社「Loon」との提携も発表しており、成功すれば日米共同のムーンショット型開発の好事例となりそうだ。
政府としてもこうした動きを促進し、官民の連携を強化していく必要がある。環境の変化を踏まえて、平井大臣は今後の大企業のあり方について次のように呼び掛ける。
「大企業には、挑戦するマインドをもう一度たぎらせてほしいと考えています。われわれも税制などで後押ししていきますので、研究開発の予算をもっと確保し、内にこもるのではなく、大学や研究機関と共に新しいものを生み出してほしいのです。また、協調領域と競争領域を明確に切り分けることも大切です。一つの方向性を定め、かたくなにそこで競争していく旧来の考え方では、いくら体力のある大企業といえども行き詰まると思います。future pullの姿勢でイノベーションを推進していただけることを期待しています」
少子高齢化などの社会課題を抱えて「課題先進国」と呼ばれる日本は、世界の注目を集めている。先進各国は今、近い将来自国でも起こり得ることやその対策について、日本を先行事例として見定めようとしている。

「どの分野にしても、諸外国に『日本と一緒にやっていきませんか』と持ち掛けると、『ぜひ一緒にやりたい』と歓迎してくれます。これは先人が築き上げてきたものに対する共感や信頼に他なりません。これは日本の大きな財産です。人生100年時代を迎える日本を、世界は静観しようと考えているのではなく、協力体制を取っていきたいと考えています。多くの人が社会参画でき、生きがいを感じられる。そして、デジタルのメリットをうまく取り込んで、いつまでも文化や芸術に関心を持っていられる社会をつくることができれば、日本は間違いなく最先端の国になれます」
日本が抱える「課題」は大きなチャンス、と平井大臣は捉えている。社会課題を起点にムーンショットを掲げ、イノベーション創出による解決を試みる。産学官民が組織やエリアの壁を超越して取り組みに参加できるようなエコシステムが整備できれば、日本は「イノベーション大国」に成り得る、と熱く語る。





