元気で活動的なシニア世代が増えるにつれてエイジングビジネスの領域が広がっている(写真はイメージ)

 進みつつある高齢化にどう対処すべきか世界各国が頭を悩ませている。同時に、各国の企業は大企業もベンチャー企業もシニアマーケットの重要性と可能性を認識し、ビジネスの開拓を試みようとしている。「エイジングビジネス2.0」とも言うべき、今後拡大するであろう新しいマーケットの可能性について、野村総合研究所のコンサルタント、木村靖夫氏と坂田彩衣氏が3回にわたって解説する。(JBpress)

日本でも広がりを見せる「ジェロントロジー」

 第1回、第2回では、海外(フランス・米国・イスラエル)におけるエイジングビジネスの推進に向けた積極的な取り組みを紹介した。最終回では、これらの海外動向を受けて、高齢化先進国である日本の在り方について議論したい。

(第1回)「シニアスーパーマンが飛ぶフランスのエイジング産業」
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54381
(第2回)「エイジング産業の育成に邁進する米国とイスラエル」
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54509

 日本では、リンダ・グラットン氏とアンドリュー・スコット氏の著書『LIFE SHIFT』(2016年)の出版を契機に、「人生100年時代」という言葉が流行語になった。定年までの労働とその後のリタイア生活というこれまで当たり前のように考えてきた人生設計を、100年というスパンで見直してみようという提言は、高齢社会を生きる多くの日本人の心に響いたようである。政府も「人生100年時代構想会議」を設置し、100年を見据えた人づくりの基本構想を提言している。

 また、それに乗じて「ジェロントロジー」という学問の存在も徐々に注目されつつある。ジェロントロジーとは、日本語では「老年学」と訳されることが多く、高齢者や高齢社会の在り方について、社会学、心理学、身体学、医学、法学、工学、経済学等のあらゆる視点から学ぶ総合的な学問である。高齢者の経済活動、資産選択など、長寿・加齢によって発生する経済課題を研究する分野として、証券会社や銀行を中心に「金融ジェロントロジー」への関心も高まりつつある。

 欧米先進諸国では、第2次世界大戦後からこのジェロントロジーに関する研究が進められ、現在でも多くの大学にジェロントロジーの学士・修士号を取得できるコースが設置されている。

 一方、日本では、現在桜美林大学での老年学修士・博士課程、東京大学の文部科学省リーディング大学院プログラム等、限られた大学・大学院でしかこの学問を学ぶことができない。近年その点に気づいた教育機関は動き出し、青山学院大学が2018年秋に「ジェロントロジー研究所」を設立、工学院大学は2019年より現在ある全4学部(先進工学部・工学部・建築学部・情報学部)の知を集結し、「共生工学:ジェロンテクノロジー(ジェロントロジー×テクノロジー)」をキーワードに、学部・学科横断型の教育研究をスタートするという。