米国マサチューセッツ州のMIT(マサチューセッツ工科大学)。「エイジラボ(AgeLab)」を設置し、高齢者の生活を支援する革新的技術の研究を行っている

 進みつつある高齢化にどう対処すべきか世界各国が頭を悩ませている。同時に、各国の企業は大企業もベンチャー企業もシニアマーケットの重要性と可能性を認識し、ビジネスの開拓を試みようとしている。「エイジングビジネス2.0」とも言うべき、今後拡大するであろう新しいマーケットの可能性について、野村総合研究所のコンサルタント、木村靖夫氏と坂田彩衣氏が3回にわたって解説する。第2回は米国とイスラエルの取り組みを見ていく。(JBpress)

米国の名門大学が研究拠点を設置

 第1回では、フランスでのエイジング産業向けの展示会の様子を紹介しつつ、フランスでの産業育成に向けた取り組みと、実際の開発に関して重要な役割を担っているリビングラボを紹介した。今回は米国およびイスラエルでのエイジング産業に関する新しい動きを紹介したい。

(第1回)「シニアスーパーマンが飛ぶフランスのエイジング産業」
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54381

 フランスではベンチャー企業の育成に力点が置かれていることを紹介したが、米国でもエイジング産業に参入しようとするベンチャー企業は数多い。彼らの活動を支援している大学や投資家もまた多数存在する。

 MIT(マサチューセッツ工科大学)には「エイジラボ(AgeLab)」という研究組織が1999年から設置されている。MITはメディアラボが有名だが、昨年(2017年)、エイジラボ所長のジョセフ・コフリン(Joseph Coughlin)博士が“Longevity Economy”(長寿経済)という本を出版し、一躍エイジラボの存在が注目されるようになった。

 エイジラボは高齢者のための新しいアイデアや革新的技術を生み出すことを目的とし、多くの企業、政府(地方自治体)と共同研究を進めている。企業との共同研究では、高齢者向けの新しい商品・サービスの開発と、より多くの家庭がその恩恵を受けられるようにコスト削減に取り組んでいる。

 エイジラボが進めるプロジェクトは、主に以下の4つのカテゴリに分けられる。

(1)ケアと健康(Caregiving & Wellbeing)
(2)引退と長寿計画(Retirement & Longevity Planning)
(3)家庭向けサービスと物流(Home Services & Logistics)
(4)交通と住みやすいコミュニティ(Transportation & Livable Communities)

 (4)の交通と住みやすいコミュニティでは、トヨタと共同で、歩行者の動きを詳細に感知するカメラシステムを活用した自動運転の研究も進められている。

 スタンフォード大学においても、長寿をリデザインすること、つまり長寿に関わる科学的発見、技術的進歩、行動慣行、社会規範の形成を加速することをミッションに、2007年に「スタンフォード・センター・オン・ロンジェビティ(Stanford Center on Longevity:SCL)」が設立された。