真島 アクセラレータープログラムでは、社内のスペシャリスト、例えば法務や生産技術、調達などをメンバーとして編成したかったのですが、それぞれ多忙で調整が困難でした。ソリューション開発部が自ら事務局をするしかなかったのですが、前述したように、ソリューション開発部自体が新規事業を立ち上げるミッションを背負っており、ちょうど、いくつかの事業が立ち上がって来ていたことが経験となり、役に立ちました。

 ただ、他社の方々から、例えば経営企画部門だけで新規事業の創出を完結したいという話を聞くのですが、我々の状況がうまく行っただけで、1つの部門のみで完結するのは、やはり困難だと思います。

 新規事業を進める事務局にとって、一番重要なのは「権限委譲」だと思います。事務局がものごとを自ら決めることができるかは、話をする相手にとっても重要で、話のスピードや広がりが全然違ってきます。

 我々の場合は、部の上長とともに、経営会議で権限委譲の承認をもらうことに注力しました。そして、経営層の理解もあり、ある程度の権限を移譲されたことが、非常に役に立ちました。参加メンバーにとっても、一定の権限移譲をされた状態で自ら考えることは良い経験になります。新しいことを始めるにはその本人の熱意が大事になるので、熱意をつぶさない環境作りも重要です。

 結果として、アイデアを自由に出す雰囲気が生まれ、同時に会社の風土も変わってきています。当社では従業員アンケートを定期的に行っているのですが、数年前までは「社内がクリエイティブでない」「イノベーティブさを感じない」「やらされ仕事ばかり」という回答が多く、閉鎖的な雰囲気がありました。これらの項目の改善は、社内風土改革として本社部門で調査しており、KPIとして追っていますが、だんだんと良い方向へ向かっている状況です。

――そうした成果や変化に、当事者として事務局が果たした貢献は大きいと思いますが、それ以外に重要な要素だと思うものはありますか。(矢野)

真島 不透明な取り組みであれば、例えば社長直下で組織化して自由に進めることが一番楽であろうと思います。ただ、会社としてはトップだけでなく、全取締役などの理解や協力を得られることが必要となります。当社ではそうした取り組みを担うことを我々の部署が、役員会の承認をもって、オープンに進められたということが、よい結果につながったと思っています。

 経営課題としては、既存事業やそのアセットをいかに生かすかという視点は最重要課題となります。しかし、企業活動の存続の上で、事業の新陳代謝をうながす新規事業の創出は必要な活動だと考えています。そのどちらにも偏りすぎないバランスが重要だと思います。

 ただ、新規事業の創出には、業績を考えるあまりにゴールや目標を決めつけすぎるのは良くありません。結果としての収益も大事ですが、新しい価値を作っているという意識やその過程を育むことが大事なのではないでしょうか。我々の部署ではテレマティクス事業がうまく行き始めていたため、経営層が肯定的に我々の活動を支援してくれたことは幸いだったと思います。

 社内には、事業部の中においておくと規模が小さい、収益がでないといった理由で光が当たりにくいものがたくさんあります。当社では経営者自らが、社員と一緒になって可能性の芽に関心を持ち、育む姿勢を示しています。それにより、例えばBlu-rayの光ピックアップ技術が、ガンの診断に役立つ「エクソソーム計測システム」に役立てられたり、音の方向性を制御する技術が、頭外定位ヘッドホン「EXOFIELD」に生かされたりしました。これは「技術立脚型企業としての進化」という経営方針にもなっており、風土改革に繋がっていると思います。