これら問題は、政治的な問題ではなく、当事者間の商取引上の問題である。なんとなれば、これらのプロジェクトは、いずれも、中国の国営企業と政府当局者との間の契約に基づいて成立したものであり、如何なる問題もその契約条項に従って解決するのが、法治国家としての中国としての立場であり、それが最も公平で、かつ透明なやり方と考える――。

 この論理には、マレーシアも、パキスタンも正面切って反論できず、その取り扱いは、結局、首脳間の交渉から、国営企業と政府当局間の交渉に委ねられることになる。

中国の経済協力の特殊性

 通常の二国間の経済協力案件であれば、その解決が企業レベルでの交渉に委ねられることはないが、何故に、一帯一路がらみの協力案件では、中国側を代表するのが、政府ではなく、国営企業となるのか。この点を理解するためには、中国の経済協力案件の特殊性を理解する必要がある。

 一帯一路構想は、習近平国家主席が突如2013年に打ち上げた新施策というよりは、むしろ中国がここ十数年(2000年から)進めてきた 「対外経済合作」の一環として理解すべきものである。

 中国の経済協力は、無償援助、奨学金の付与等の典型的な経済協力項目も含まれているが、その割合は極めて少なく、その大部分は(99%:JETROアジア経済研究所大西康雄氏の情報に基づく)「対外経済合作」である。

「対外経済合作」とは、分かり易く言えば、中国の国営企業等が、海外に出て、インフラや資源開発等のプロジェクトを発掘し、その建設を海外諸国から受注し、その事業を一気通貫で実施する請負事業である。中国流に言えば、それは、建設請負、設計コンサルティング、労務提供を一体的に提供する海外事業である。それは、国内企業が海外に進出して行う海外直接投資(FDI)と類似するが、通常のFDIと異なるのは、これらの投資活動を自らの投資として行うのではなく、途上国からの請負事業として実施する点にある。

 したがって、当該事業を完成させるためには、途上国は、自らの資金を使って中国国営企業に発注するか、あるいは、どこかからお金を借りてきて、発注するか、のいずれかの方法に拠る必要がある。インフラ・プロジェクトは通常多額かつ長期の資金を要するので、途上国政府がこのような資金を調達することは容易ではない。国営企業はこの状況を見据え、素早く中国商務部に話を上げ、当該途上国が、政府系金融機関から借りられるように手助けをする。中国からの融資が受けられれば、途上国政府は、この借入金を使って、国営企業に発注できるようになり、国営企業も自分で開発したプロジェクトを、途上国からの支払いを得て、実施できることになる。

 中国の対外経済協力の特徴を簡単に述べれば、中国の国営企業が先頭に立ち、彼らが途上国におけるプロジェクトを開発し、これに必要な資金は政府が、政府系金融機関を通じて供給するという方式である。この資金の提供先として最も大きいのは、中国開発銀行であり、対外経済合作資金の4分の3を占め、残り4分の1は中国輸出入銀行が提供する。ただここで注意する必要があるのは、中国開発銀行の資金は、資本市場から調達される商業的資金なので、その金利は高く、ここ数年は6%台で推移している。中国輸出入銀行の場合、政府からの利子補給があることから、その金利は低く、2~3%であるが、いずれも有償資金であることには変わりはない。債務の罠の問題は、この政府系金融機関からの貸付に付随して派生する問題である。

 以上、中国の経済協力の特殊性等を簡単に説明してきたが、次回は何故に一帯一路に係るプロジェクトがかくも大きな問題となるのか、そしてこの問題を解消するため中国はどのような手立てを打ってきたのかに焦点を当てて、説明をしたい。