先ず、当初マハティールはプロジェクトのキャンセルを主張したが、キャンセル料が高くなりすぎることから、昨秋これを諦め、交渉の目標をプロジェクトの規模を半分にすることに定め直した。この第二段階での交渉では、中国側は、プロジェックの規模を半分にすることはできないが、路線経路を変更すれば、トンネル建設の工事費は省けるので、プロジェクトコストを3分の1減らすことができるとした(2016年11月に提示したものを今年1月に再提示)。マレーシア側はこの削減額では不十分であるとし、他の事業者に切り替えることも検討したが (The Straight Times、2019年1月22日)、結局そこまでも踏み切れず、マハティールの北京再訪問を直後に控えた4月、先に提示された中国側の削減案を飲むこととし、上記の発表にこぎつけた。

今年4月26日、北京で開かれた一帯一路フォーラムの歓迎会に出席したマレーシアのマハティール首相(左から2人目)と中国の習近平国家主席(右から2人目。写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 このときマハティールは「国費の大幅な節約につながった」と胸を張った。確かにプロジェクトのサイズは縮小されたが、当初掲げていたのはプロジェクト自体の中止だ。これをもってマレーシアの見直し交渉は成功裏に終わったとは言い難い。

膨張する対外債務が課題のパキスタンはどう対応したか

 ではパキスタンのケースはどうなったか。パキスタンは、クリケットの国民的大スター、イムラン・カーンが率いるPTI党が昨年7月の総選挙で勝利を収め、新内閣の発足とともに、中国パキスタン経済回廊(CPEC)に関する委員会が発足した(9月4日発表)。その後10月1日に鉄道大臣はCPECの中の主要プロジェクトであるML-1鉄道プロジェクトはその見積もりが過大であり(82億ドル)、20億ドル削減する必要がある、とした。ただ、この削減案はあくまでもパキスタン側の見解であり、それはカーン首相の11月北京訪問時に中国側と確定する必要があった。

 鉄道大臣を伴って北京で習近平との会談に臨んだカーン首相だったが、共同声明の中では、本鉄道プロジェクト削減問題については何らの言及も無く、逆に、両国間でのCPEC協力の一層の強化が謳われることになった。マレーシア本国では、本件削減問題の決着に対し強い期待を有していただけに、この様な共同声明の内容には不満を隠せず、マスコミでも「今回の北京訪問は完全な失敗に終わった」と報じられた。

 その後カーン首相は本年4月、冒頭に紹介した一帯一路の第二回フォーラム出席のため再び北京を訪れたが、この訪問時の中国側の対応は、極めて冷たいものであった。例えば、昨年11月の訪問時には、空港で交通大臣が出迎えてくれたが、今年4月の訪問時には、北京市の中堅幹部による出迎えに留まった。

 こうした空気を察知してか、翌々日のフォーラムでカーン首相は、グリーン投資に関する国際連帯の必要性に言及するなど、中国政府の代弁ともいえるスピーチを行うのみであった。さらに、この訪問期間中に李克強首相との間で合意した鉄道プロジェクト見直し協定においては、プロジェクトの削減案には触れられず、列車の運航速度が160km/hに上がるといった技術的問題への言及があるのみで、一時マレーシア側から中国側(中国建設工程)に提案されたBOT方式の一部導入についても何らの言及も無かった。