毎年ゴールデンウイークに東京などで行われているクラシック音楽の一大イベント「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」。今年は「Les Titans ―タイタンたち―」というタイトルで、後期ロマン派を取り上げている。

樋口裕一氏、白取春彦氏とそれぞれの著書/前田せいめい撮影樋口裕一氏(左) 白取春彦氏(右)
(撮影:前田せいめい、以下同)

 大のクラシックファンで、ワーグナー愛好家の作家、樋口裕一氏は近著の『音楽で人は輝く――愛と対立のクラシック』で、ワーグナー派とブラームス派の対立軸を視点に、後期ロマン派の楽しみ方を伝えている。

 そのワーグナーと深い交流のあったニーチェの著作から警句と断章を集めた『超訳ニーチェの言葉』の編訳で注目を集めたのが白取春彦氏。

 樋口氏と白取氏に、ワーグナーとニーチェの不思議な関係、後期ロマン派の特徴などについて語ってもらった。 

大芸術家ワーグナーのところに、無名のニーチェが押しかけた

白取 『音楽で人は輝く――愛と対立のクラシック』、読ませていただきました。ワーグナーがお好きのようで。

樋口 ありがとうございます。そうですね、どちらかといえばワグネリアン。実は携帯の待ち受けもワーグナーでして(笑)

 お返しじゃありませんが、白取さんの『超訳ニーチェの言葉』は、ニーチェって何を言ってるのか分からないところがあるのを、ずいぶん分かりやすくしていただいたな、と。

白取 ニーチェは晩年、おかしくなっちゃうんですけど、僕があの本でスポットを当てたのは、35~36歳ぐらいの彼ですからね。まだ分かりやすかった頃。手紙なんか見ると40代半ばから、もうヘンです。

樋口 ワーグナーとニーチェの関係にはとても興味をそそられます。そもそもニーチェはワーグナーの弟子筋の人で、年齢は30歳ぐらい違うんです。ワーグナーは1813年、ニーチェは1844年の生まれ。で、1865年ぐらいからニーチェとワーグナーは接近する。そのころのニーチェは、まだ無名ですよね。

白取 『ツァラトゥストゥラはかく語りき』で有名になったのは1890年ですから、ワーグナーが生きていた頃は何者でもありませんでした。ただのヘンな人だったと思いますよ(笑)