医療にあなたの人生をお任せしてはいけない
――この本はがん患者さんの物語ですが、緩和ケアとは、がん患者だけが受けられるものなのでしょうか。
西 智弘氏(以下、西) 保険適用になるのは、がんと心不全、エイズですが、ほとんどががん患者さんですね。エイズは現在、症状がほぼ抑えられるようになりましたから、終末期の患者さんが緩和ケアに来られることは、ほとんどありません。それよりも保険適用外ですが、呼吸器や神経系の患者さんにも必要なのではないかと感じています。
――「医療の民主化」がこの本のキーワードのひとつですが、民主化とはどういうことなのでしょう? 独裁でない、ということになるのでしょうか。
西 医療にお任せにしない、ということです。病気のことはお医者さんに任せておけばなんとかなる、と思っている人が多いですよね。それでいいこともありますが、人生そのもの、たとえば生きていられる時間が限られている時、自由な行動が病気で制限されるような時に、医師に自分の人生を任せっきりにしてはいけないということです。
生きていく中で知らないこと、わからないことは専門家を頼りますよね。例えば法律とか、仕事のやり方だとか。病気の時には医療者が助けてあげることができますが、そのためには患者さん自身に「自分とは何か」「どう生きていきたいのか」という意思がないと、こちらは何をしてあげたらいいのかがわかりません。「私、どうやって生きたらいいですか?」とわれわれに聞かれても、「こちらでは、わかりません」としか言えなくなります。あなたの専門家は、あなた自身です。患者さんの思うように生きるために、治療法を工夫したり、痛みを和らげたりすることは僕たちが手助けできる。医療の民主化とは、患者さんも医療者も一緒に歩みましょうということです。
――健康な時には、病気になって体が不自由になったり、物事しっかり考えることができなくなるほどの苦痛を抱えたりするようになるとは思っていない人がほとんどで、生きていることが当たり前と感じているはずです。そういう中で、普段から「どう生きていきたいか」なんて、意識していない人が多いと思いますが・・・。
西 普通は考えないですね。でも、「自分とは何か」「どう生きていきたいのか」は元気なうちから考えておいた方がいいと思いますし、家族など身近な関係の中でも共有しておいた方がいい。患者さんが意思表示をできない状態で医療機関に来られることも多いですが、事前に話し合っておかないと本人の「このように生きてきて、こうやっていきたい」ということはわからないし、われわれも応えられなくなります。
対話を重ねることで患者を孤独にしない
――健康に暮らしていて、突然がんだと突き付けられれば誰でも大きなショックを受けます。深刻な状態が見つかっても、医療を受ける期間がけっこう長期化することが多いですね。
西 抗がん剤治療を受けるのか、入院するか、在宅治療にするか、他に試したい治療があるか、やりたいことがあるか・・・その期間中に選べることはけっこうあります。高齢の患者さんであったら積極的な治療がいいとは限らない場合もある。たとえばそういう患者さんでも病気の症状が良くなることを期待しているわけですが、実際には体は弱っていくこともある。そこで、「悪くなった時にはこんなことが起きる可能性がある、その時にどうしたいですか?」と本人と話して、希望に沿うようにしたいんです。