イスラム教急進派や保守派と言われる人々が、元陸軍戦略予備軍司令官で1998年まで32年間長期独裁政権を維持したスハルト元大統領の女婿プラボウォ・スビアント氏を支持したことで、ジョコ・ウィドド大統領を支持するイスラム穏健派、非イスラム教徒との間で「イスラムの分裂を招いた」と分析されている。
だが分裂したのはイスラム教の内部だけではなく「イスラム教徒と非イスラム教徒」、「多数派と性的少数者や民族的少数者」という分断であり、深刻な「溝」を顕在化させてしまったのだ。
各地で相次ぐ少数者差別事件
5月24日、インドネシア・中部ジャワ州の州都スマランにあるスマラン行政裁判所がインドネシア人警察官(30)の解雇無効の訴えを却下する判断を下した。
この男性警察官はプライバシー保護のためTTというイニシャルでしか伝えられていないが、2018年12月に警察官を解雇された。
その理由はTTがゲイであり、それを不服として不当解雇撤回を求めた裁判だった。その訴えが却下されたのだ。
インドネシアでは、国民の生命と財産を守り治安を維持するための警察官は特に高い倫理観が求められている。
女性警察官の新規採用に関しては「高い倫理観維持のため」として未婚志願者に対しては医師による「処女検査」が国際的な女性団体や人権組織の批判にも関わらず現在も行われている。
こうした独特の規範を持つ警察社会の中では同性愛者は異端者であり、許されざる存在として判明次第「解雇の対象」となるのが不文律とされているのだ。
インドネシアではいわゆる性的少数者(LGBT)の存在は法の下で平等な権利を有し、一般国民と同等の地位が保障されている。
しかし、それはあくまで建て前に過ぎないことが今回の裁判で改めて裏付けられた。
ただしスマトラ島最北端のアチェ州はイスラム法(シャリア)が施行されており、その建前さえも通らない、唯一の例外地域となっている。婚外性交などで宗教警察に逮捕され、公開でむち打ち刑が実施されているのもアチェ州なのだ。