宗教都市目指す市条例の動き

 5月21日、地元英字紙「ジャカルタ・ポスト」は西ジャワ州デポック市が「秩序ある宗教都市を目指す条例制定を進めている」ことを伝えた。

 同市のイドリス市長は市議会で第1党となったイスラム政党「福祉正義党(PKS)」所属で、表向きは「市民には人種、文化、宗教と様々な背景があるが、多様性の中の統一やパンチャシラに基づく条例が必要」と主張し2020年の制定を目指すとしている。

 PKSは大統領選では落選したプラボウォ氏を支持する野党連合の一角でもある。

 条例案は「汚職、薬物使用、賭け事、女性と子供の権利侵害、妊娠中絶」などを禁止する内容で市レベルでの生活規範の強化が盛り込まれている。

 その一方で条例案では「イスラム教徒はコーランと預言者ムハンマドの言行録(スンナ)に従うこと」を求めるなど市人口の多数を占めるイスラム教が強い影響を与える内容となっている。

 同様の条例案は同市議会が過去に否決した経緯があり、世俗派政党で国会では最大与党を占め、ジョコ・ウィドド大統領の所属政党でもある「闘争民主党(PDIP)」の同市議員らは「宗教に関する規定は国の専管事項である」と批判するとともに、この条例の内容が「宗教的少数者、性的少数者などの差別を助長する危険をはらんでいる」と反対している。

イスラムを巡る数々の事案

 ジャワ島中部の都市スマランにあるベセスダ病院墓地で2019年4月、キリスト教徒の墓に立てられていた十字架11本が根こそぎ抜き取られ放置される事案が起きた。

 また4月8日には、スマトラ島北部の北スマトラ州の州都メダンでイスラム教の礼拝所「モスク」から拡声器を通じて近隣一帯に1日5回流れてくる祈祷を呼びかける「アザーン」の声が「うるさい」と注文をつけたということで禁固18カ月の実刑判決を受けていた女性の上告を最高裁が棄却、判決が確定した。

 この女性の発言に周囲のイスラム教徒が一斉に反発して「宗教冒涜罪」で訴えた結果だが、当初ユスフ・カラ副大統領(イスラム教徒)などからは「この問題は騒音問題であり、宗教問題ではない」と指摘するなど沈静化の動きがでたものの、地域の圧倒的多数であるイスラム教徒の「見えざる圧力」に裁判所も屈した形の判決となった。