(北村 淳:軍事社会学者)
6月7日、西太平洋のフィリピン海(あるいは東シナ海)でアメリカ軍艦とロシア軍艦が衝突寸前のニアミス事件を引き起こした。
ヨーロッパ周辺の海域や空域では、NATO(北大西洋条約機構)軍とロシア軍の艦艇や航空機の間でニアミスや妨害行為がしばしば繰り返されている。しかし、太平洋方面でアメリカ海軍艦艇とロシア海軍艦艇がこのようなニアミス事件を引き起こしたのは、米ソ冷戦終結後初めてとなる。
真っ向から齟齬(そご)する米露の主張
米海軍によると、フィリピン海で艦載哨戒ヘリコプターを着艦させるために直進を続けていた米海軍第7艦隊所属イージス巡洋艦「チャンセラービル」に、ロシア海軍太平洋艦隊所属対潜駆逐艦「アドミラル・ヴィノグラードフ」が衝突寸前の至近距離(15~30メートル)まで急接近した。チャンセラービルは緊急回避行動をとり危うく両艦の衝突は避けられた、とアメリカ国防当局はロシア海軍を強く非難している。
これに対してロシア側は次のように主張し、アメリカ側を強く非難している。アドミラル・ヴィノグラードフが東シナ海南東海域を航行中のところ、近接して航行していたアメリカ軍艦が突然針路を変更してロシア艦の針路を塞ぐように50メートル以内という至近距離に接近した。そのため、アドミラル・ヴィノグラードフは緊急回避行動をとり、衝突を避けた。アメリカ海軍がこのような危険な行動をとったのは、ロシアと中国の首脳による会談に敵対的圧力をかけるためである。
そもそもアメリカ第7艦隊が「ニアミス事件が発生したのはフィリピン海(西太平洋南部)」としているのに対して、ロシア側は東シナ海で発生したとしている(東シナ海は極めて大雑把に西太平洋とされることもあるがフィリピン海と混同されることはない)。このような齟齬に関して、アメリカ海軍は明言を避けている。
おそらく、チャンセラービルはロナルド・レーガン空母打撃群の一員としてパトロール任務に従事中であったはずであるから、空母打撃群の行動を公開したくないために、正確な事件発生位置を特定させたくはなかったものと考えられる。