世界経済失速という巨大な渦に、日本の中小企業が飲み込まれている。特に自動車や家電、建設業界などで減産、受注減が下請け中小企業を直撃。倒産に追い込まれる企業も相次ぐ。
そうした状況の中、数多くの中小企業が人員、賃金を削り、機械を止めて、嵐が過ぎ去るのを待ち続けている。だがその一方でこの不況をチャンスと捉え、積極的に新規ビジネスの開拓に挑む会社も存在する。生産設備メーカーのプレシード(熊本県宇城市)は、まさにそんな会社である。
作りたいものを作るために会社を設立
〒869-0513
熊本県宇城市松橋町 萩尾2213番地1
プレシードの設立は1989年。創業社長の松本修一氏は、もともと生産設備メーカーの平田機工に勤める技術者だった。当時の松本氏は、「自分にはそこそこの技術力がある」という自負があった。だが、ビジネスに関してはまったく無頓着。「見積書だって書いたことがないし、納品書と請求書の区別もつかなかったほど」だという。
そんな根っからの技術者だった松本氏が、なぜ独立して会社を設立することになったのか。具体的なビジネスモデルがあったわけではない。ひとえに、組織の中で仕事をすることに対して窮屈さを感じるようになったからである。
組織に身を置く技術者が自分の思い通りに製品開発を進められるケースはめったにない。松本氏はそれが耐え難くなってきた。そして「自分が作りたいものを作る」という一心で会社を飛び出してしまった。
もちろん、いきなり作りたいものを作ってビジネスが成り立つはずがない。プレシードが創業以来手がけてきたのは、受託開発の仕事である。製造するのは、電子機器、自動車、食品、流通といった業界に向けた生産システムや装置だ。
例えば半導体の基盤搬送装置、チップブレーク機やウエハー洗浄機。フラットパネルディスプレイ(FPD)の基盤圧着装置、薬液塗布装置、反転機。自動車部品の搬送装置、検査装置などもある。こうした機械を、発注企業のニーズに合わせて、オーダーメードで作り上げる。
嗅覚を利かせて成長市場を探す
今まで、半導体から始まり、自動車、FPD、そして太陽電池へと、製品開発の軸足を移してきた。その身のこなしは俊敏で、ダイナミックだ。
例えば、2006年度はFPD関連の装置開発が売り上げの6割を占めていた。だが、2007年以降はFPDの需要は縮小すると読み、太陽電池関連分野に軸足をシフトしていった。その結果、2008年度は、FPD関連製品の売り上げが1割にまで下がった。代わりに太陽電池関連の売り上げが一気に増え、6割にまで達するようになった。
松本氏は、プレシードのビジネススタイルは「ハンティングビジネス」だと言う。毎年度、どの業界・分野が成長するかという予測を立て、それに沿って新製品を開発し、営業をかけていく。まさに嗅覚を利かせて獲物を探し出す「狩猟」なのだ。この姿勢こそが、他の多くの受託開発企業と一線を画すプレシードの大きな特徴である。