本当に読むに値する「おすすめ本」を紹介する書評サイト「HONZ」から選りすぐりの記事をお届けします。

(文:吉村 博光)

 本書は、新しい時代のキャリアプランについて書かれた本だ。しかし著者の略歴には、次のように書かれている。「後継者不在などで存続の危機にある中小企業を700社以上支援してきており、「社長のおくりびと」の異名をもつ・・・」この経歴に、興味を持つ方は多いに違いない。ただ一瞬、タイトルとの間に違和感を覚えるかもしれない。しかし、よく考えてみれば事業買収の一方の主役は売り手側の社長なのである。

 昨年私がHONZで紹介した『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい』は大きな反響をいただいた。その後、雑誌でも続々と特集が組まれるようになり、いまや個人M&Aは期待のキャリアプランとして注目の的となっている。しかしそれは、売る側にとってみれば、精魂込めて運営してきた会社の最終到達点でもあるのだ。

買う側も売る側も幸せに

 売る側がメリットを感じて、「売る決断」をしなければ何も始まらない。だからこそ、売る側の状況を知ることは不可欠である。本書には、著者だからこそ知り得たオーナー社長の置かれている状況が随所に書かれている。早速だが、そんなエピソードの一つを引用させていただく。

“私の知り合いの社長は、いずれ会社を継がせることを想定して、よそから働きにきた40代の男性を自分の家の離れに住み込ませてあげていました。後継者ができたと喜んだ社長は、新しい工具や設備を買ってあげて、「いずれ会社は君に譲るから」と伝えてもいたそうです。(中略)ところが、ある日「実家に一度帰って、荷物を取ってきます」と社長に伝えて出て行ったきり、彼と連絡が取れなくなってしまったそうです。 ~本書第2章より”