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(文:西野 智紀)

 読み進めるのが苦しい一冊だった。登場する人々が長く抱えてきた生きづらさが、とても他人事に思えなかったからだ。壮絶な「現場」の描写も相まって、一読するだけでも相当な根気がいる本であることは、あらかじめ断っておきたい。

 本書は日本の社会問題の一つである孤独死の現状と特殊清掃の現場、そして亡くなった人々と特殊清掃人たちの人生を綿密な取材によって浮き彫りにした迫真のノンフィクションである。著者は1982年生まれのフリーライターで、事故物件公示サイト「大島てる」を通して大島てる氏と知り合ったことをきっかけに特殊清掃の世界に興味を持ち、ビジネスニュースサイト等で孤独死に関わる記事を多数執筆している。昨年末に東洋経済オンラインで発表した大量孤独死の未来を憂慮する記事は大反響となり、トータルで450万PVを超えるアクセスを記録。高齢者だけでなく若年層からの関心も高かったそうだ。

共通するのが部屋のゴミ屋敷化

 著者が本書の取材を開始したのは2018年の7月中頃。覚えている方も多いと思うが、昨年は異常な猛暑であった。暑さは熱中症の増加、ならびに孤独死の急増を意味する。特殊清掃業者にとっては書き入れ時で、2か月ほど不休で働き、年間利益のほとんどを稼ぎ出す業者もいる。

 孤独死する人々にはいくつか共通するポイントがある。その一つが、部屋のゴミ屋敷化だ。ゴミを溜め込んだり、食事を摂らなかったり、医療を拒否したりするなどして、自分の健康を自分で悪化させていく状態(セルフネグレクトと呼ぶ)が孤独死の前段階なのだそうだ。著者の試算によれば、日本において現在およそ1000万人が孤立状態にあり、そのうち約8割がこのセルフネグレクトであるという。

 本書から、著者が特殊清掃人・上東と8月下旬に熱中症で亡くなった65歳の男性・佐藤(仮名)のゴミ屋敷化した部屋に入ったときの様子を引用してみる。

“佐藤が亡くなったと思われる場所は、山の頂のようになっている。まるで、ここだと指し示すかのように、黒い弓形のものが頂に突き刺さっているのが目についた。
目を凝らすと、それは注ぎ口付きのバケツであった。バケツのふちを囲うようにして茶色い尿石がびっしりとこびりついている。上東が取っ手を握ると、チャップンチャップンと波立って中の液体が揺れた。ほぼ8分目まで入っていたが、外にこぼれることはなかった。混濁してどろどろだったからである。凄まじいアンモニア臭だった。”