マスコミの誤解だった「ミカンは肌によくない」

柑橘類の摂取と身体への作用(前篇)

2019.05.17(Fri)漆原 次郎
杉浦実(すぎうら・みのる)氏。同志社女子大学生活科学部食物栄養学科食品機能学研究室教授。薬学博士。1990年、京都工芸繊維大学大学院繊維学研究科修士課程修了。民間企業で天然物からの生理活性物質の探索研究に従事。1999年、農林水産省に入省、果樹試験場カンキツ部研究員。改組を経て、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)果樹茶業研究部門カンキツ研究領域カンキツ流通利用・機能性ユニット長に。静岡県引佐郡三ケ日町(現浜松市北区三ヶ日町)において2003年度から10年間にわたり実施した栄養疫学研究「三ヶ日町研究」を主導。2018年4月より現職。現在は、食品が有する生体調節機能の解明などをテーマに研究と教育を行う。

杉浦実教授(以下、敬称略) それなりの衝撃は感じました。この研究グループは栄養疫学分野では世界でもトップクラスの成果をこれまでいくつも発表してきたグループです。食物頻度調査法という手法を確立した著名な研究者も含まれていましたし、また、同誌はインパクトファクターとよばれる影響度の高い雑誌でもあります。

 けれども、この論文については、気になるところもありました。

――どんなところですか。

杉浦 その後、他の研究グループから同様のテーマの論文がまだ出てこない点です。もし、他の研究で同様の解析結果が出れば、あるいは関連性が見られないという結果になっても、他の研究グループから柑橘摂取とメラノーマリスクとの関連について何かしら論文が出るはずです。そうした論文をまだひとつも見ていません。

 また、米国人の皮膚がんの実態と比べ、論文での皮膚がん発症数がやや多いことも気になります。米国人の部位別がんのなかでも皮膚がんは、肺がんや前立腺がん、乳がんに比べるとかなり少ないのですが、同論文ではおよそ25年間の追跡期間で、約10万人のうち1840人が皮膚がんになったとしています。これは、米国人での皮膚がんの累積罹患率を考えるとずいぶん多い数字と受けとめています。

 もともと皮膚がんのハイリスクな集団なのかは分かりませんが、およそ25年間の追跡期間で、約10万人のうち1840人が皮膚がんになった集団の結果をそのまま日本人に当てはめて考えることはできません。また、医療専門職を対象に行われた疫学研究ですから、一般の人よりも健康に対する意識が高い集団といえます。その点も、今回の結果を一般化するためにはさらに研究が必要と思います。

 疫学研究では、ひとつの結果だけで評価が固まることはありえません。いくつもの調査が行われ、全体として、食物摂取と病気に関連性があるかが解析されていくものです。

――現状は、これから評価が定まっていく過程において、ひとつ目の研究結果が出た段階にすぎない、と。

杉浦 そのとおりです。

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