ネットで検索してみると、新生銀行を筆頭に、三井住友銀行、みずほ銀行、住信SBIネット銀行、ソニー銀行、あおぞら銀行、広島銀行、じぶん銀行、第四銀行、阿波銀行など、デリバティブ付きの仕組み預金を売っている銀行は非常に多い。

二重通貨型とコーラブル預金

 こうした仕組み預金には大別して2種類がある。

 1つは「二重通貨型」で、円で預金し、満期日に円高になっていれば、ドルで元利金が返ってくるものだ。これは顧客に(実質的に)ドルのプットオプションを売らせて作る。ゴーン氏の仕組み預金はこのタイプで、仕組みやスキーム図は前稿で説明した通りである。

 もう1つは「満期日繰り上げ型」(コーラブル預金)で、銀行が定期預金の満期日を早めて取引を終えられる権利を持つものだ。これは銀行がカウンターパートと金利スワップ契約を結び、カウンターパートにスワップ解約オプション(金利スワップション)を与える(このスワップ取引を「コーラブルスワップ」と呼ぶ)。市場のスワップ金利が低下した場合、カウンターパートはオプションを行使して、スワップ契約を解除し、銀行は預金の満期を繰り上げて顧客に払い戻す(“callable”は「解消できる」という意味)。

 私が聞いた限りでは、ゴーン氏の預金には満期繰り上げ特約は付いていなかったようだが、念のため下にスキーム図を示す。

【図】コーラブル預金のイメージ

 ちなみに後者は1980年代に、金融工学で世界のトップを走っていた米系大手投資銀行ソロモン・ブラザーズが日本に持ち込んだ「コーラブルローン」の応用だ。ソロモン東京支店の営業担当者がトヨタ自動車から「うちは固定金利の長期借入れをいつでも銀行に返済してよいことになっている」と聞かされ、銀行がトヨタにタダでコーラブルオプションを与えているのを知り、ソロモンがスワップションを組んで、それを実質的に買い取り、オプション料の一部を還元して、より低金利の借入れを実現した(このあたりのことは拙著『巨大投資銀行』<角川文庫>上巻181~188ページ、および仕組み図を巻末に記載してあるので、興味のある向きは参照されたい)。