ところで、ファストトラックをめぐって、与野党がこれだけ必死になっている理由は何だろうか。

 まず、ファストトラックに含まれた「選挙法改正案」は、地域区の議席数を大幅に減らす代わりに、比例代表の議席数を増やす案を骨子とする。新しい選挙法による各政党の議席数を現在の政党支持率を使ってシミュレーションした結果、地域区議席数が多い「自由韓国党」の議席は20議席近く減る半面、群小政党(正義党、民主平和党、正しい未来党)は、比例代表議席数の増加で議席が大幅に増えることが確認された。

 新しい選挙法で来年の総選挙を行う場合、韓国唯一の保守系政党の「自由韓国党」は、国会過半数を占めることがほぼ不可能になってしまう。一方、「共に民主党」も議席数は減るが、政権に近い群小政党との連携が可能であるため、安定的に国会を掌握することができると見られている。

「反日」の文在寅路線が20年続くかも

 文在寅政権の宿願だった「高級公職者不正捜査処(公捜処)新設法」も、ファストトラックに含まれている。検察と裁判官、警察などの高級公職者の不正を捜査し、起訴できるもう一つの「司法機関」を新設する同法案は、人選過程で政権の意見が大きく反映されると一部から懸念されている。洪準杓(ホン・ジュンピョ)元自由韓国党代表は、「左派検察庁を作って、既存の検察権力を無力化しようとする試み」とまで非難した。

「裁判取引」という罪名で保守系裁判官が大挙追い出され、「ウリ法研究会」という進歩系親睦団体出身の裁判官に入れ替えられた最高裁判所。進歩性向の裁判官で埋め尽くされた憲法裁判所。ここに、政権に左右される高級公職者不正捜査処まで新設されると、韓国の司法府は文在寅政権を全く牽制できなくなる。

 現在の韓国国会も文在寅政権を牽制することはできない。肉弾戦が蔓延した歴代の韓国国会でも、選挙法改正だけは与野党の合意による「満場一致」で成立してきた。それが、今は進歩系政党によって、「合意の場」となる国会が損なわれてしまった。

 ファストトラックに乗せられようとしている法案が成立すれば、恐らく保守政党が再び政権を握ることは極めて困難になる。また、政権の恣意的判断により、政治家や官僚に捜査の手が伸びてくる事態も懸念される。

 名ばかりの「三権分立」の下で、「共に民主党」が訴える「20年政権プラン」が次第に現実味を増してきている。日本にとっても単なる「対岸の火事」では済まない。反日姿勢を鮮明にする文在寅政権と同じスタンスの政権があと十数年も続くとしたら、日韓関係は壊滅的打撃を受けることになるだろう。