だが、そもそもファストトラック案件に指定されるためには、国会在籍議員の5分の3以上の賛成、または案件の所管委員会の在籍委員の5分の3以上の賛成が必要となる。「共に民主党」をはじめとする4党連合軍の議席数は176議席で、在籍議員の5分の3(総300議席のうち、180議席)に及ばない。
結局、ファストトラックとして指定されるためには、所管委員会で所属議員の5分の3以上の賛成が必要となった。ところが、キャスティングボードを握っている「正しい未来党」からまさかの反対の声が上がった。「自由韓国党」の前身である「セヌリ党」出身の呉晨煥(オ・シンファン)議員が「反対票を投じる」と宣言したのだ。
保守系の「セヌリ党」からの離党派と、進歩系の「国民の党」からの離党派で構成された「正しい未来党」では、当初からファストトラックに対する反対論も多く、たったの一票差でファストトラックの追認が通過された。党の規定には「党論を決めるためには3分の2以上の賛成が必要」となっているため、一票差の通過に納得しない議員も多かった。
そこで、呉議員が反対に票を入れれば、ファストトラックは所管委員会の票決で5分の3に至らない「10対8」の否決とされる。切羽詰った「正しい未来党」の指導部は、所管委員会の委員を呉議員から別の議員に交代すること決め、委員の交代を申請する書類を文喜相国会議長に提出しようとした。この動きに対して、「自由韓国党」の議員たちは、「正しい未来党」の委員交代を阻止するために、国会議長室に慌てて駆けつけた。
ご記憶の人も多いと思うが、文喜相国会議長は、慰安婦問題に関して「天皇陛下の謝罪要求発言」を行った主だ。
国会議長をセクハラで告訴
24日午前、羅卿ウォン(ナ・ギョンウォン)議員が率いる「自由韓国党」議員50人余りは国会議長室を訪問した。羅議員らは、「国会法には、本人の同意なしに臨時会中に所管委員会の議員を入れ替えることはできないと明記されている」と主張し、「国会議長が阻止してほしい」と要請した。しかし文議長は「最善を尽くすが、やむを得ない場合は仕方がない」と拒み、急いで席を立とうとした。この後、議長室を抜けようとする文議長と、彼を止めようとする議員らの間に激しいもみ合いが始まり、この過程で文議長が女性議員に「セクハラ」を犯したという主張が提起された。
「自由韓国党」によると、同日、文議長は自分の行く手を遮った女性議員の腹部を両手で触ったという。女性議員が「いまのはセクハラだ」と抗議すると、「だったら、これなら大丈夫かよ?」と、改めて女性議員の顔を両手で触った。女性議員が再び抗議したが、文議長は気にもせず、再び両手で女性議員の顔を触るなど、性的羞恥心を感じさせる行動を続けたと「自由韓国党」は主張する。
このことで議員たちから激しい抗議を受けた文議長は、約30分後、警護員に助けられながら現場を抜け出し、直後に「体調不良」を訴え、病院に急きょ搬送された。もちろんこの騒動の中で、「正しい未来党」は、委員交代の申請書類を文議長に提出することはできなかった。
しかし全ては打合せ通りだったのか。翌25日の午前、「正しい未来党」は呉晨煥議員を辞任させて他の議員に交代するという文書をファックスで送付、その文書は病院にいる文喜相国会議長に届けられた。病室の外まで「正しい未来党」の反対派議員が委員交代を防ぐため訪ねてきたが、文議長は病室のドアを堅く閉めたまま、委員交代文書にさっさとサインしてしまった。
前代未聞の「病室承認」に対して、「自由韓国党」と「正しい未来党」の反対派議員は「無効」を主張し、憲法訴願を提起すると明らかにした。当事者の呉晨煥議員も憲法裁判所に「効力停止仮処分」を申請すると宣言した。「自由韓国党」はまた、文議長個人に対して、「これ以上、国会を代表する資格がない人」とし、辞任を要求する一方、26日にはわいせつ行為の疑いで検察に告訴した。韓国国会の混乱はますます混迷を深めている。