4月2日、ストルテンベルグ氏をホワイトハウスに迎えたトランプ氏は、2人の共同記者会見で、「同盟国の負担増」以外のことはNATOについて語らなかった。ストルテンベルグ氏は表情ひとつ変えずに「あなたの指導力に感謝する」と持ち上げてみせたが、胸中は複雑だったろう。

トランプ氏の主張にも一理

 トランプ氏の強硬な要求を前に、欧州諸国の一部は国防費を増やしており、威嚇効果は確認されている。ただ、トランプ氏の主張は「暴論」と片付けてよい性質の話でもない。

 NATOの資料によると、2018年のNATO加盟国全体の国防支出は1兆134億ドル(約112兆4900億円)。うち約7割を米国(7061億ドル)が占め、2位の英国(615億ドル)の10倍以上になる。欧州最大の経済大国ドイツ(510億ドル)は英国とフランス(520億ドル)を下回り、4位にとどまる。

 トランプ氏がドイツに向けて繰り出すジャブは、親切に解釈するなら、「相対的な力の低下の中で米国は国防費を増やしている。豊かな欧州も力に見合った負担をしてほしい」という、ある意味まっとうな要求といえる。ドイツ軍の海空戦力の劣化も指摘されている。

 NATO加盟国が国内総生産(GDP)の2%を目安に国防費として支出するという目標も新しくはない。ソ連崩壊に伴う脅威の低減を受けて欧州諸国が国防費を削減したことで問題になった。ブッシュ政権もオバマ政権も「分相応の負担」を欧州に求めてきたのに、欧州が受け流してきたのである。無論、国防費の対GDP比率だけで加盟国を縛る手法は必ずしも合理的ではないとの主張もある。国防費が一定割合で増えても経済成長率が変動すれば比率は上下する。「公正さを担保する指標ではない」との批判は根強い。

日米同盟への影響は?

 だが、同盟国との通商・軍事関係を、米国にとっての金銭的な損得というプリズムでしかとらえないトランプ氏にとって、「数字」は明快な物差しだ。NATO加盟国に国防費増加を迫りつつ、その支出を米国製兵器の調達に充てるよう米国が求めているとも伝わる。

 この論理が在日米軍基地の駐留経費や自衛隊の装備調達に援用されたらどうだろう?

 トランプ氏が今年のかなり早い時期に「同盟国に駐留する米軍の経費に50%を上乗せした金額をホスト国に負担させろ」と周辺に指示したとブルームバーグ通信が3月に報じた。

 米政府当局者は「複数の案のひとつに過ぎない」と言うが、もし米国がこの方針を全同盟国に突きつければ、日本の安全保障政策に重大な影響を及ぼす。日本の安全保障政策は米国による抑止力を大前提にしてきた。トランプ流の対同盟国外交のリスクをどう管理するのか。氏がホワイトハウスの主であり続ける間、日本にとって大きな悩みの種であり続ける。