フランスで18週目の「黄ベスト運動」、ブランド店で略奪も

仏ボルドーで行われた「ジレ・ジョーヌ(黄色いベスト)」運動のデモ参加者ら(2019年3月16日撮影)。(c) MEHDI FEDOUACH / AFP〔AFPBB News

 昨年秋以来、土曜日ごとにフランス各地で繰り広げられる抗議デモ「黄色いベスト運動」への「回答」としてマクロン大統領が1月中旬に始めた全国各地の国民との「対話集会」行脚が3月15日、終幕を迎えた。

 世論の吸い上げという点で一定の効果があったかに見えたが、翌16日には、デモに便乗した激しい破壊活動が再発。パリの目抜き通りシャンゼリゼは大荒れとなった。5月下旬の欧州議会選挙を前に欧州連合(EU)加盟国に広がる「反EUのナショナリズム」に戦いの狼煙をあげたマクロン氏だが、足元では抗議の炎がくすぶり続けている。

 仏内務省によると、16日のデモには約3万2300人が参加。初回の約28万2000人に比べ、その数は1割強にまで縮小した。だが、破壊活動の激しさは、凱旋門に傷が付くなどした12月1日を彷彿とさせた。1500人超とみられる破壊者集団がシャンゼリゼ通りに結集。カルティエ、オメガ、スワロフスキーといった高級ブランド店やブティック、19世紀以来の伝統を持つ高級ホテル・フーケツの有名なブラッスリーやスターバックスなど90軒以上の店舗で暴行を働き、商品を略奪し、放火するなどの行為に及んだ。

フランスで18週目の「黄ベスト運動」、ブランド店で略奪も

仏パリのシャンゼリゼ通りで行われた「ジレ・ジョーヌ(黄色いベスト)」運動のデモで略奪被害を受けた紳士服ブランド「ヒューゴボス」の店舗の写真を撮る女性(2019年3月16日撮影)。(c)HERVE BAR/ AFP〔AFPBB News

 メンバーの一人は仏テレビに「高級店オーナーたちは生活に困っていない。襲撃は仕方ないだろう」とうそぶいた。カルティエの店舗壁面には「また来週!」と再度の襲撃を予告するような落書きが残された。「社会正義が暴動を正当化する」との落書きもある。地元経済界幹部は「年商の3~4割が破壊行動によって失われる」と悲鳴をあげる。路上では警察や機動隊の車両、新聞スタンド、郵便ポストなどが破壊・放火された。デモ隊と治安部隊が衝突する場面も相変わらず。検挙されたデモ参加者は144人に上った。デモ隊の42人、治安部隊の17人、消防隊の1人が負傷したという。

「対話」行脚には好印象

 11月中旬、最初のデモに28万人以上が参加した時、マクロン氏はその規模に衝撃を受け、一時は引きこもりに近い状態になったと伝えられた。だが、それから18週間。3月16日の週末は、外遊先のアフリカから戻ってピレネー山脈でスキー休暇を取っていた。2カ月の「対話」の成果に自信を深め、リラックスしていたに違いない。世論懐柔策として1月中旬から全仏を回り、「対話集会」を重ねてきた。支持率は回復し、昨年12月のイフォップ社の調査で23%に落ち込んだ数字は3月上旬、28%に回復していた。

 マクロン氏は地方へ出向き、国民の声に耳を傾け、自らの政策を雄弁にアピールした。本人は不在でも、大統領に賛同して地方自治体の首長らが主催した集会は約1万回にのぼる。コミューン(日本の市町村に相当)役場などの窓口で住民に要求や提案を自由に書いてもらう「嘆願陳情書」はノート約1万6000冊分に達した。国民がインターネット経由で政府に出した意見や要求は約150万件。草の根の声を集める官製世論調査というべきプロジェクトだった

 国民の意見は多岐にわたる。「田舎から消えた医療、行政サービス、商業施設を復活してほしい」「減税で生活を楽にして」「年金生活者から社会保障税を徴収するな」「公共交通機関の拡充を」「燃料税は廃止を」といった生活に直結した訴えは多い。「租税回避の取り締まりを強化せよ」と富裕層への反感を込めた声や、「国民が直接発議する国民投票の導入を」「大統領の罷免手続きを定めよう」「国会議員の定数を減らせ」「比例代表制を導入せよ」「上院はいらない」といった政治制度にまつわる意見もかなり出た。