岩政:最初はもう、ずっとテレビで見ている人っていう感覚ですよね。そこから代表に行って、南アフリカ・ワールドカップのときに俊さんがサブ側のメンバーに入ってきて・・・そうすると我々のサブメンバーとスタメン組が紅白戦をやるときに、俊さんがどういう振る舞いをするかやっぱり見るわけですよね。そのときに「こっちにいるメンバーがしっかりとやることで上につなげていくんだ」っていうことをおっしゃっていて、僕らを鼓舞もしてくれたし、実際のプレーでもそれを示していました。そこまでできる人って限られるよなというのが、僕の大きな印象ですね。
――チームへの姿勢が印象的だったわけですね。
岩政:あとはセットプレー。紅白戦とかでセットプレーがあるわけですよ。僕は当然、中で狙っているんですけど、なんとなく「このへんに蹴ってください」っていうのを示すと、十中八九そこに蹴ってくれる。これはすごいなと。もちろん、キックがすごいのは知ってましたけど・・・僕も(チームメイトだった)満男さんや野沢(拓也)選手とプレーしていて、キックのトップクラスの精度はなんとなく知ってるつもりではいたんですけど、さらに上だった。もう「ここに」って言ったら「ここに」来るんで。逆にそれで緊張してしまって(笑)。アバウトで来ると「俺が合せなきゃ」ってなるんですけど、「ここに」って言ったら「ここに」来るんで、それがちょっとすごすぎて。
中村:そんな練習あったっけ?
岩政:紅白戦とか練習試合です。全部来るんです、毎回。緊張して僕は一個も決められなかったです(笑)。「え? きた、きた!」って思っちゃって。何となくの方が良かった(笑)。
中村:はははは。
――メンタル的にも(笑)。
岩政:そうそう。その印象、すごい強いですね。
――そのセットプレーについて俊輔さんは著書で「パッケージで考える」(※1)と書かれています。実は、岩政さんも合わせる側として同じことを仰っていました。俊輔さんがそれを考え始めたのはいつ頃ですか?
(※1)
多くの場合、セットプレーのチャンスは1試合に1回だけではなく何回かあるもの。
キッカーとしては毎回、「この1本で決める」と気持ちを込めているが、相手もいる競技なのでなかなか決まらない。
そんな時、僕は試合中にある複数回のセットプレーをトータルで考え、球種やコースを選んでいく。
例えば、1回目のCKはあえて相手の目線を変えるような球種を選び、2回目以降の布石にすることもある。直接FKでも、GKやDFとの駆け引きを念頭に置き、さまざまなボールを蹴り分ける。(『中村俊輔式 サッカー観戦術』より)
中村:日本代表に入ってからですよ。あとは海外リーグに行ってより思いましたね。Jリーグではフワっとしたボールで(相手DFの)上から叩くことができても、これがいざ、ワールドカップになったりすると・・・
――「対世界」を見たとき通用しない。
中村:そう。今までのやり方では絶対に勝てない。じゃあ、日本人がセットプレーで強みにできるのは何かを考えて・・・今でさえ「デザイン」とかありますけどね。
岩政:具体的にはどんなことを考えたんですか?
中村:「ピンポイントで速いボール。相手が触ったとしても、そこまで遠くに飛ばない、速攻にならないボール」。そうするとやっぱり落ちるボールで、速いのが一番、究極っていうか・・・。言い方はおかしいかもしれないけど「味方も相手も両方とも触りづらいボール」だよね。で、ちょっと触ったらゴールになるような。だから、「せーの」で合わせるようなボールは、(フィジカルが強くて高さもある・栗原)勇蔵とかボンバーにも蹴ってない。フワッと蹴っていたのは、「これちょっと本当に追いつかなきゃ」っていうときくらいだよね。
岩政:ああ、ありましたね。
中村:ボンバーだったら、助走つけて走れば上から叩ける。でもそれを一回やると、次から相手は、ゾーンにして、ひとり小さくて執拗にマークできる選手をボンバーにつけてくる。そしたらボンバーだって走りづらくなるから、できなくなる。だから、次の次を考えていろいろ蹴らないとね。試していたよね、「この人、ここやれんのかな?」とか。
岩政:それがパッケージですね。そのときは相手も見るし、味方も見るわけですか。