与えるだけではない、やらせる

 石井の深謀はそれだけに留まらない。

 数多くの練習方法をわざわざ「野球以外」のところから探してくるのは、「選手たちに飽きさせないため」だ。

 このように、選手の気持ちをうまくコントロールしていくのは石井琢朗の真骨頂である。

 例えば、先のカープ担当記者も舌を巻いた、という練習方法「ローテーションバッティング」がわかりやすい。通常、キャンプでは選手がいくつかの班に分かれ、メイン球場、サブグラウンド、室内練習場などを移動しながら、それぞれの練習に取り組むが、石井の考案した「ローテーションバッティング」は、それをひとつの球場で行う。今キャンプでは7種類の練習が一つのグラウンドで繰り広げられていた。

 安全に配慮しネットを分け、打撃練習をする選手がみな一つの場所にとどまるわけだ。

 カープでもヤクルトでもその光景は同じなのだが、その意図にはこうだ(ちなみにストレートに尋ねると、「移動が面倒だから」と煙に巻かれてしまう)。

「自分が現役のときの経験で、移動しながら練習をするのは効率が悪いなとは思っていて。それに選手が自分の目が離れる場所にいると、状態が分からなくて不安になったりもする。それで、じゃあ一か所に集めよう、と思ったわけ。でも、一番は選手に暇な時間を作らせないことかな」

 「暇な時間」。ローテーションと名のつく通り、トスバッティングが終われば、フリーバッティング、それが終われば次の練習・・・と、選手は次々とメニューをこなさなければならない。一つ一つの練習をする場所が分かれていれば、移動時間や、自分の番までの待ち時間などができるが、この仕組みだとそういう「空いた時間」が一切ない。

「振る量を増やすことは大事。でも、ただ振っておけ、と言ったってしんどいだけで続かないし、質もよくならない。だから(ローテーションという)仕組みを作って、その中で、振らなきゃいけないようにしている」

 言葉は悪いが、「強制する仕組み化」をしているのである。