うまくなるのには順番がある

 念頭にあるのは、昨今叫ばれる「自主性」一辺倒に対する危機感だ。トップ選手たちの技術や練習法は、昨今、いろいろなところで知れるようになった。選手間の垣根は減ってきているし、ネットで検索するだけでもいろいろな情報に触れられる。そこから得た、各々に合った練習をするために「個人練習」に代表される自主性が重んじられる風潮は、プロ野球界にもある。

「さっきも言ったけど、うまくなる、勝つためには最低限の量は必要だと思っている。最近は自主性が重視されていて、どうしても個人の練習時間を増やしがちだけど、それはその最低限のベースがあってこそだと思うんだよね。もちろん、トップ選手はそれでいいと思う。なぜかといえば、彼らには最低限のベースがあるから。でも、そこに至るまでのベースの部分がなければその自主性も意味がなくなる」

 石井はそう言い、続けた。

「もちろん、そういう部分がはまって結果が出る選手もいる。でも、そういう選手が一回、スランプに陥るともうもとに戻ってこれないっていうのもたくさん見てきたから。落ちても上がってこれる選手っていうのは、ベースがあるんだよね。戻ってこれる場所が」

 仕組み化することで作った土台には、先に提示した「選択肢」が貢献する。

「(自分たちで選ぶことで)責任感や、自主性はそういうところから生まれてくるのかなと思うんだよね。押しつけられて、言われたところでやるのって、言われたこと以外なにもできないっていうことになってしまうので」

1970年8月25日生まれ、栃木県佐野市出身。ドラフト外で横浜大洋ホエールズに投手として入団。92年から内野手に。以降、攻守の要として活躍。98年には不動の一番打者として最多安打、盗塁王を獲得。チームの38年ぶりのリーグ優勝、日本一に貢献する。2008年広島カープに移籍。引退後、コーチに就任した。プロ野球歴代14位となる2432安打を記録している。

 土台を作るために必要な最低限の量。それを「やらせる仕組み」作る。
 結果を出すために必要な選択肢と組み合わせを与える。そこで考えさせ自主性を生む。

 シンプルだが、それを実現させる仕組みを作ったことに「石井コーチ」のすごさがある。

 開幕では沈黙した打線だったが、石井の言う「発展途上」がどこまで前進できるか――あとは結果で証明するだけだ。