前回(新型車「味見」で浮かび上がる海外メーカーの「本気」)は、欧米メーカーの新型車を「味見」して観測した各メーカーの意志や動きについて論じた。その対比として浮かび上がるのが、「動質をつくり込むこと」、それ以前に「自動車としての基本的な資質を進化させること」を軽視する、今の日本メーカーの姿勢である。。
動質の軽視は、そして基本的な資質の停滞は、いずれボディブローのように、市場における日本車の評価と販売に表れてくる。そう断言していい。
皆が同じように、つまり先進各国のメーカーが、マーケティング主導やブランド色強調に偏したクルマづくりに走って、基本を同じように軽視し、混迷の中にいてくれたから、昨今最近の日本のクルマづくりでも通用したのであって、「やっぱりクルマは、乗って、座って、走らせてこそ」と、自動車にとって最も重要な品質づくりに注力する人々と組織が増えるほど(すなわち世界のメーカーが本質に回帰してくるほど)、この弱点を認識して、注力しないと危うい。
欧米の潮流はガソリンエンジンの燃料直噴化。日本は?
さらにもう1つ、工業製品としての自動車に欠かせない刻々の「技術進化」についても、世界の新しいクルマたちと触れ合う中では「日本の停滞」を実感する。
例えば動力システム一つ取っても、ガソリンのシリンダー内直接噴射は、欧州勢はもちろんゼネラル・モーターズ(GM)も数年前から採用し、装着対象エンジンを拡大しているし、フォード・モーターも最新モデルから導入を始める。
旧態化した机上論では、この「直噴」のメリットはさほど大きなものとは考えられていない。シリンダー内でガソリンが気化する時の気化潜熱で混合気の温度が下がり、充填効率が少し高まるのと、リーンバーン(空気に対して燃料の量が少ない「希薄混合気」による燃焼)させようとすると着火しにくいので、その着火源として混合気が濃い部分を作る「成層化」がしやすい、という程度だ。
デメリットとしては、シリンダーに吸い込む手前からガソリンを噴射して空気と混合させる従来の構造(吸気ポート間接噴射)よりも、短い時間で、しかもシリンダーの中で混合気を作るのはちょっと難しい。
日本勢は、かつてリーンバーンエンジンに突っ走り、うたい文句とは違って実用燃費は良くならず、しかも、ガソリンを筒内直噴で成層混合気を作ろうとする際の混合不良、煤の発生と燃焼室内部への堆積などの問題に直面して失敗した。この体験から、ガソリン直噴エンジンの製品化には消極的だ。