すると、無意識のうちに自分の心が素直にその周囲の日本人と共に動き出し、自分の心の中に育まれていた思いやり、おもてなし、恥の文化などへの共感が形になって現れ出す。
アニメを通じて幼い頃からなじみ親しんだ心のかたちを共有する人たちと心地よい時間を過ごす喜びを味わっている自分に気づくのである。
日本のアニメを見て育った中国人の心の中にあった種が、直接日本人の世界に接して芽を吹き、開花する。一度開いた花は元の種には戻らない。
中国へ帰っても元に戻らないため、周囲の人たちから見ると人格が変わってしまったように見える。
実は、中国ではこうしたことと類似の現象は以前からよく知られていた。
中国人が欧米に留学しても中国人のまま帰国するが、日本に留学した中国人は半分日本人になって帰国すると言われているそうである。
これについても多くの中国の友人たちに確認したところ、確かにその通りだという答えが返ってきた。
4.日本文化の感化力の背景
これが日本の感化力である。実は中国人のみならず、アメリカ、ヨーロッパ、アジアの国々から日本を訪れる人々は少なからず日本の伝統精神文化に感化される。
ある米国人の友人が、子供と一緒に10日間ほど日本を旅行したところ、それまでいくら礼儀作法や道徳を守る大切さを教えても身につかなかったにもかかわらず、日本から帰国すると別人のように礼儀正しく道徳を大切にするようになり、逆に親の方が子供から注意されるようになったという話を聞いたことがある。
中国の友人たちに聞いた話を総合すると、どうやらその日本の感化力は特に中国人に対して強く働くようである。なぜか?
1月後半の中国出張の間、多くの中国人とこのテーマについて語り合いながら、その理由を考えた。そして次のような答えにたどり着いた。
思いやりは「仁」、恥の文化は自分の悪を恥じる心、すなわち「義」、おもてなしは「礼」。いずれも中国古典の中で最も重視される人間としての基本的内面規範である。