「特攻」と同じ精神構造
吉田がマウンドを降りたシーンを朝日新聞はこう伝えている。
「オレ、もう投げられない」
この夏、金足農のマウンドを一人で守ってきたエース吉田の言葉を聞いたのは二塁手・菅原天だった。
中盤に打たれた後、マウンドに励ますために駆け寄ったときに言われた。「あんな弱気な輝星を見たことがなかった」。菅原天は「俺たちが逆転してやるからここは踏ん張れ」と励ました。その後、再三菅原天は声をかけにいった。
アルプスへのあいさつのあと吉田は泣き崩れた。でも、菅原天は「輝星が投げてくれたからここまで来られた。胸を張れ」と支えた。秋田勢の初優勝はかなわなかったが、最後まで戦った金足農の絆はしっかりと結実した。
「狂気」が「美談」にすり替わっている。かつて戦争で若者に「特攻」させたことを美談として語ったのと同じ精神構造だ。
18歳の若者に、摂氏40度近いグランドで2週間の間に800球を超える全力投球をさせ、それを大人たちがクーラーの効いた部屋で見ながら「爽やかだねえ」と青春を懐かしむ。これも一種の狂気である。
私が携わる少年サッカーの世界では日本サッカー協会から、グランドの温度が36度を超えた場合には試合や練習は中止するよう、通達が出ている。実際、昨年7月に開催された流山市少年サッカー連盟主催の市内大会は高温のため数試合を残して中止になり、決勝戦は秋に延期した。盛り上がりに欠けたが、子どもの安全に配慮した正しい判断だと思う。
サッカーの場合、中学、高校の試合を見ても、選手に無理をさせるケースは少ないように思う。野球と最も異なるのはJリーグ下部組織(J下部)の存在だ。トップチームに上がる選手の育成を目的としたJ下部の指導者は、自分が担当する年代の選手に無理をさせて故障させるような真似はしない。彼らに与えられたミッションは選手を育てることであり、タイトルを獲ることではないからだ。