「萬平さんならできます」「私は信じてますよ」という言葉が福子からたびたび発せられます。もともと萬平を信じている福子ですが、何度となく訪れた挫折をともに乗り越えてきたからこそ、心の底から成功を信じられるようになったのでしょう。それによって頻繁な口出しや手出しをせず見守れるようになったと考えられるのです。
「それが話の聞き方とどう関係があるの?」と感じたかもしれません。しかし、この相手に対する信頼感こそが「聞く技術」の基礎にある重要な感覚です。
たとえば「うん」という何気ない相槌。相手の話に深く感銘を受けた「うん」と、疑って怪訝そうに言う「うん」とでは、相手に与える影響がまったく異なることは容易に想像がつくのではないでしょうか。
「もっと話したい、もっと聞いてほしい」とか「ちょっと自信が湧いてきた、やってみようかな」といった感情を引き起こすには、相手への深い信頼感が必要不可欠なのです。
少しの進歩を指摘する
「見守る」という言葉が出ましたが、人は「見てもらっている」「気に掛けてもらっている」という感覚によってモチベーションが湧きます。コーチングやカウンセリングの専門用語で「承認」と言いますが、人は承認されることで、安心して発言したり行動を起こしたりできるのです。
承認というとイコール褒めることだと思われがちです。もちろん「すごいね」と褒めることも承認のうちです。しかし褒められると、褒めることでもっと成果をあげてもらおうとする、褒める側の意図が伝わり、相手の反発心を生む可能性があります。より効果的な承認は、ただ「いるね」「あるね」と存在を確認することです。
たとえばドラマのエピソードで、ぼそぼそだった麺をなんとか形にしたはいいものの、やはりコシが無く不味い麺だったため、萬平が落ち込んで酒におぼれる場面があります。愚痴をこぼす萬平に福子は「麺になっただけでも一歩前に進みました」「ダメやて分かったんやから。それはええことやありませんか」と声を掛けます。
このように、ほんの少しでも前進していることに気付き、それを「すごいね」ではなく「(進歩が)あるよ」と事実を指摘するだけでよいのです。これはいつもその人のことを見ていないとできないことです。「誰かが見てくれている」という感覚だけで、人はくじけずに行動を続けることができるのです。