この寺社の大小、祭の規模のいかんに応じて、露店の出方にも、大・中・小がある。出店できるスペースのいかんにもよるわけである(参考:添田知道『テキヤ(香具師)の生活』、雄山閣出版)。

 何れにしても、出店の配置を割り振るのは、その庭場(ニワバ=ヤクザでいう縄張りと似て非なるもの)を取り仕切る親分の采配により、実際は幹部が行う。これをテイタ割り(手板=場所割り)という。

 テイタを割る前段階として、まずはチャクトウ(到着簿)をつけ、ネタ(商売で扱う品)の種別、業態、他所の土地から商売に来る旅人の一家名と、本人の名を記していく。これらのネタと業態、そして旅人の持つ一家の看板の重さ、業種の様々などを検討し、上(カミ=神殿寄り)、中、下に店を割り当てる。この作業は、旅人の顔を立て、商売の相殺を防ぐためである。テイタを割るのは世話人である親分であるが、彼の存在が無ければ、祭は混沌とクレームのるつぼと化すから一筋縄でいかない。その理由は、後編でお話する。

 テイタ割りを世話するのは、テキヤ仲間の仁義である。今日の庭場の親分でも、よその土地に行って商売をしようと思えば、自分の身内の者が旅人として世話になる。したがって、テイタ割りは、同業者の互助的なルールであると同時に、旅人の顔を立てるという配慮が不可欠であるから、緻密さと熟練が求められる。ちなみに、この詳細は、彼らの秘中の秘らしく、筆者がどんなに頼んでも教えてくれなかった。

テキヤは間違いなくガテン系

 実際、タカマチ(祭礼)の稼ぎ込みは忙しい。「なんだ、楽勝そうや」などと、テキヤに憧れる若い人が居るが、テキヤ稼業ほど大変なものはない。まず、例祭の数日前から小屋組みをしないといけない。これは、ヤチャの小屋を組むことから始まり、次に三寸を組んで行く。組むというと簡単に聞こえるが、テキヤの商売は、祭りが終わると迅速に商売を畳まないといけないので、全てが紐で組んである(規模が小さな祭りは、一日で商売を畳んで、他所の祭りに移動することも普通である)。筆者などは、小屋組みの終盤には、指先の感覚が無くなり、歯で紐を結んでいた位である。

 つぎに、祭りが近づくと、大量の材料を仕入れる。キャベツやネギなどの青物は業者がトラックで持って来るが、これを若い衆が一列に並び、バケツリレーよろしく手渡しでテントの中に収納するのである。最初の10箱くらいはマアマアだが、30箱も手渡ししていると、腰にくる。実際にはキャベツだけでも100箱位はあったと思う。

テキヤ稼業ほど大変なものはない。(写真:筆者提供)

 祭りの当日には、それらを各三寸なり調理する場所に運び、延々とキャベツ切りをしないと間に合わない。主に、お好み焼きや焼そばといったコナモノに用いる。ちなみに、お好みソースなどは一斗缶で、山のように届くためテントの中に壁ができる。