ではキーデバイスとなる有機ELパネルの生産体制はどうなっているのか?

 12月のファインテックジャパンでの基調講演で、伴副社長は、世界最軽量のシャープ製有機ELスマホを生産する「フレキシブルOLED(有機EL)ライン」について説明した。実はシャープのスマホ用有機ELパネルは、1か所の工場で生産されているわけではない。バックプレーン(駆動素子基板)工程は三重県の多気工場(G4.5)、OLED/モジュール工程は堺工場(G4.5)で作られているのである(【図2】参照)。

【図2】シャープ フレキシブルOLEDライン(シャープ提供資料から筆者作成)

 シャープ関係者からの情報を総合すると、この有機ELスマホには、多気工場で駆動用の低温ポリシリコン(LTPS)薄膜トランジスタを形成し、それを堺工場まで運び、表示のための有機ELを形成しているそうだ。多気工場には低温ポリシリコン用のラインと共に、既にIGZO-TFTラインが設置されていて、両者は選択によって使い分けが可能とのことである。

 そのため少量生産から始める有機ELパネルも、今後、様々な生産工程の選択肢を経て、大量生産体制に移行していくと考えられる。

ディスプレイ事業で韓国勢に勝つためには

 シャープが、3年ぶりにディスプレイ戦略を明らかにしたことは同社にとってよい効果があったと思う。ステークホルダーである株主や投資家、そして仕事で繋がるネットワークに、基本方針と戦略を明示できるからである。

 ただ、競争相手である韓国は、シャープのさらに先を走っている。

 サムスンは、有機ELを搭載した「折りたたみスマホ」を、2018年11月に公開した。量産も数か月以内には可能という。

 もう1つのライバル・LGは、2018年1月にラスベガスで開催されたCES(Consumer Electronics Show)で、88インチの8K有機ELテレビと65インチの巻取り式有機ELテレビを展示した。巻取り式有機ELテレビについては2019年に発売するとの情報もある。

 これら韓国勢と競争するには、シャープも、8KとAIoTの基本方針を具現化する戦略を「有言実行」する必要がある。特にディスプレイ戦略の実行が重要で、コアテクノロジーである8K液晶、有機EL、そしてIGZO-TFTの開発と商品化が鍵である。鴻海の傘下に入り息を吹き返したシャープ。一時は埋もれかけていた真の底力を発揮するのはこれからだ。