その有機ELスマホに触れる前に、液晶ディスプレイの戦略についてもう少し述べておきたい。

 筆者がシャープの液晶ディスプレイの底力を再認識させられたのは、10月に同じ幕張メッセで行われたエレクトロニクス展示会「CEATEC JAPAN2018」の会場だった。ここでシャープの8K液晶テレビ(チューナー内蔵型)は、CEATECのトータルソリューション部門のグランプリを受賞した(【写真1】)。もちろんその将来性や市場性が評価されてのことだ。

【写真1】シャープの8K液晶テレビ(チューナー内蔵型)(CEATEC JAPAN2018 にて著者撮影)

 また、世界で初めて、1台で「撮影」「収録」「再生」「ライン出力」を実現した業務用8Kカムコーダーも紹介。8K編集システムや、世界最小8K内視鏡カメラの展示も行われていた。8Kのマーケットはまだ立ち上がっているとは言えない段階で、家電量販店のテレビ売り場も4Kや有機ELテレビが推されている。そこにあえて8Kの液晶で勝負に出ているシャープ。どこよりも先駆けて8K技術開発の先頭に立ち、市場を作り出そうという意気込みを感じるのである。

 ただし、シャープの8K液晶テレビ(チューナー内蔵型)は、まだまだ高額だ。筆者が家電量販店を覗いた範囲で言えば、現在の価格は60インチで74万8000円。4K液晶テレビ(チューナー内蔵型)は、50インチが約20万円、60インチが約28万円と、「なんとか手が出る」という価格帯だ。

 同じ60インチで8Kと4Kテレビの価格を比較すると、現状で47万円程もの大きな価格差がある。市場創出にはこれからの価格低下が不可欠だ。8Kパネルの生産技術の改善による価格低下が鍵を握る。

「液晶の次も液晶」の方針を撤回しての有機EL参入

 そして、筆者が注目した有機ELスマホである。

「液晶の次も液晶」

 この言葉は、2007年、当時シャープの代表取締役だった片山幹雄氏が記者会見で述べたものだ。厚さ20ミリの薄型液晶テレビの試作品を発表した場での発言である。当時のシャープにとっては、液晶事業こそが会社の誇りであり、生命線だった。

 ところが、韓国・台湾の液晶への積極投資により猛追を受けた。そして、シャープは堺工場への「過大投資」の影響により、業績は急降下していった。「液晶一本足打法のためだ」と揶揄された。

 いまでもシャープのディスプレイ事業は液晶がメインストリームを占めている。それは冒頭で紹介した、米中での液晶工場の建設にも表れている。

 しかし、いまは「一本足」ではない。「液晶の次も液晶」の宣言を覆して、今回シャープは有機ELにも打って出る決断をした。