何を変え、何を変えないか:ニーバーの祈り
我が国の安全保障上、平成30年は極めて重要な年であった。
今年、改正・改定の対象になったのは、「日本国憲法」と私が戦略3文書と呼んでいる「国家安全保障戦略」「防衛計画の大綱」「中期防衛力整備計画」であった。
この戦略3文書は、米国的に言えば「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「国家軍事戦略」に相当する文書だと思っている。
これらの文書の改正・改定の結果を分析していると、有名なニーバーの祈りを思い出した。
この祈りは米国の神学者ラインホルド・ニーバーが作った祈りで、「主よ、 変えられないものを受け入れる心の静けさと、変えられるものを変える勇気と、その両者を見分ける英知を我に与え給え」というものだ。
本来ならば上位の文書である「日本国憲法」と「国家安全保障戦略」が改正されて、それを受けて下位の文書である「防衛計画の大綱」と「中期防衛力整備計画」が改定されるべきである。
しかし、最上位に位置する憲法については、改正のための本格的な道筋をつけることができなかった。
日本の安全保障にとって大きな制約になっている憲法第9条を改正できないことは戦略3文書に極めて大きな影響を与える。速やかなる改正を切望する。
また、残念ながら「国家安全保障戦略」も改定されなかった。憲法が改正されなくても、現行の憲法下でも改定すべき事項はあったのにもかかわらずである。
改定されたのは下位の文書である「防衛計画の大綱」と「中期防衛力整備計画」であった。
改定された「防衛計画の大綱」と「中期防衛力整備計画」について、「今までのものに比べて完成度が高い」と評価する人もいるが、「上位の2文書が改正されないという条件下では比較的まとまったものになった」と私は評価している。
以下、戦略3文書の改定について論を進めるが、本稿においては、決定された「防衛計画の大綱」を「新大綱」、「中期防衛力整備計画」を「新中期防」と記述し、大綱と中期防を合わせて新大綱等と表現する。