(花園 祐:ジャーナリスト)
「お主も悪よのう、越後屋」「いえいえ、お代官様こそ・・・」
日本の時代劇において、もはや様式美すら感じさせるやり取りですが、ここに出てくる「お代官様」とは、江戸時代における地方官職の「代官」を指しています。江戸から離れた幕府直轄地(天領)において年貢を管理したり治安を維持するのが主な職務で、現代風に言えば地方にある子会社の社長みたいな役職でした。
講談での悪役のイメージとは違い、在職中はできるだけ無難に過ごそうとするサラリーマン気質の代官が多かったといわれます。ただし中には、時代劇もびっくりするくらい悪行を繰り返した人物もいます。今回は、やりたい放題を繰り返した悪代官を巡る「大原騒動」という事件について紹介したいと思います。
地元商人と結託して金稼ぎ
江戸時代、現在の岐阜県高山市は飛騨高山藩として独立した行政区分でした。当初は金森長近に始まる金森氏が代々治めていましたが、鉱山や木材収入を当て込んだ幕府によって金森氏は転封となり、1692年からは代官が治める幕府天領となりました。
1765年、大原紹正という人物が代官としてこの地にやってきました。大原紹正は飛騨代官に就任するや、山林保護を理由として、農民らに材木の伐採を禁止する措置を打ち出してきました。