物が豊かではなかった時代に、今に生かす知恵がある

――精神的な意味合いを付加することで、継続的な文化に発展するということですね。

古沢 はい。この考え方はこれからの未来で重要になります。というのも、人類は農耕文化のあと、産業革命によって物質文化となりました。しかし、物質が中心となった時代は過ぎ、今はサービスや文化産業などが中心となる「ポスト工業化社会」になりつつあります。

 となると、物質そのものが持つ豊かさや便利さよりも、その上に付加する別の価値がなければ人は感銘を受けにくい。その意味で、実はワラの文化を作った古き日本の人々の知恵が参考になるのです。

――SDGsの視点で考えても、過去の時代に学ぶべきことがあるのですね。

古沢 最近はAIを中心とした技術文明の論議が中心となっていますが、江戸時代のような、「鎖国」という形で物質的に閉じられていた時代にも、今の私たちが必要とする知恵があります。その時代に形成された、あらゆるものを生かし切る知恵や文化、その世界観は次の時代を考える上での示唆になるでしょう。

 ですから、過去の伝統をただ伝統として見るのではなく、次の時代に生かせる知恵として、新たな革新を生み出す要素として参考にしなければいけません。ワラの文化についても、ワラの文化を単体で考えるのではなく、そこから多面的に洞察し総合的に応用できるものはないか、いわば「未来への種」として見ることが必要です。日本の貢献という点では、SDGsの取り組みを新たな文化の再創造、新ルネサンスへと高めていく必要があるのではないでしょうか。

――分かりました。いずれにしても、SDGsを軸に日本の伝統文化が持つ可能性を垣間見た気がします。

古沢 そうですね。ただ残念なことに、SDGsの視点において、日本の現状には憂慮すべき点が多々あります。特にそれを象徴するのがオリンピックに関する問題です。次回はオリンピックを切り口にSDGsを考えていきます。

つづく

【参考】宗方慧『村を守る、ワラのお人形さま』(福音館書店)