――確かに、さまざまな形で展開されていますね。

ワラ文化のエコロジー的展開図。
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古沢 ワラという素材を、米の生産という目的以外の形で大切に生かしきっていく文化が醸成されていったのです。自然が秘めていた潜在力を開花させる文化です。

 現代社会の価値観では、物事の利用を目的だけに絞って効率化を図る単線的・単一的な概念で捉えがちです。狭いモノカルチャー的発想ですね。稲作なら「米の生産」だけを目的に、効率化や最大化を図る。結果、必要のないものはそぎ落とされます。

 一方、近代以前に築かれてきたワラの文化は、「米の生産」の各段階で、副産物となるワラの利用価値を生み出しつつ、循環的・総合的に利用の輪を広げているのです。つまり、自然が生み出す力を多面的・総合的に受けとめるマルチカルチャー的世界観があります。SDGsが目指す複合的効果そのものです。

精神的な意味づけが、ワラのリサイクルを生んだ

――なるほど。確かに有効活用されていることが分かります。

古沢 さらに特筆すべきは、ワラが新年のしめ飾りや神社のしめ縄、相撲の土俵などにも使われてきたことです。相撲はもともと、五穀豊穣を祈願する神事でしたから、これらに共通する点として、ワラが神様への祈願のシンボルとして活用されていたことが分かります。日本各地の村には、今でも大きな藁人形の神さま(道祖神など)を祭っているところがありますね。

 つまり、物的な素材としてワラを多面的に利用するとともに、精神的、宗教的な意味合いでも同じく多面的に使われていました。これは非常に興味深いことでしょう。

 実はこの「精神的、宗教的な意味合い」を加味した部分こそ、現代の私たちが学ぶべきことかもしれません。

――どういったことでしょうか。