古沢広祐氏(以下、敬称略) そうですね。これからの地球や社会、共存を考える上で、私たちは物事を時間的にも空間的にもさまざまなスケールで拡大・縮小して見る必要があります。これは人間に備わっている特別な能力であり、「魔法のメガネ」ともいえるでしょう。それらを呼び起こすために、SDGsは非常に有効なのです。
その際に大切なのは、3つの視点です。多様な角度から物事を捉える「複眼知」、事象の構造や関係性・矛盾を見極める「批判(洞察)知」、他と自分がつながり合う関係性を生み出す「共感(総合)知」です。
この観点を持って、ありとあらゆる事象を見直すべきです。すると、身の回りに、さまざまな知恵が凝縮された、あるいは未来の共存を考える上で参考にすべきものが隠れていることに気づきます。昔から積み上げてきた人智の宝物が見えてくるかもしれません。SDGsは、その視点をリードしてくれます。
――代表例として、先生は「ワラ」を挙げられました。どういう意味なのでしょうか。
古沢 日本人が伝統的に生み出してきたワラの利用法は、まさに持続可能な社会を築く上で参考になるのです。
ワラは本来、稲作の副産物として生まれます。基本的には、米を作る際に発生するもので、稲を刈り、脱穀して残ったものがワラとなります。米の生産という目的だけで見れば、脱穀して米のなくなったワラは「役目を終えた」といえますが、日本では古くから、そこにとどまらずワラを多面的に利用してきました。
たとえば、燃料や家畜の食べる飼料にも使いましたし、萱(かや)ぶき屋根とともに簡易の屋根葺き材や土壁の補強材としても活用されました。あるいは、草履(ぞうり)のひとつである“わらじ”や、敷物としての“むしろ”の材料にもなりました。
さらに、ワラを焼いた後の“ワラ灰”は、肥料や灰汁(あく)抜きにとどまらず、染物や刃物、焼き物など、多様な産業で利用されたのです。