古沢 SDGsの前から、3R(リデュース、リユース、リサイクル)と呼ばれる「環境に配慮した物の使い方」が重視されています。以前に、環境保護活動家としてノーベル平和賞を受賞した、ケニア人女性のワンガリ・マータイさんが日本の「もったいない」という言葉を世界に紹介して話題になりました。確実に、物を余すことなく使い、多面的に活用する意識は高まっています。

 ただし、ワラの事例は、物質として余すことなく使うだけでなく、精神的な意味合いも付加しています。地域によっては、お盆に先祖の迎え火や送り火としてワラを焚くこともあります。また、生死の蘇りとして民話の「花さか爺さん」のお話でも、灰をまくと、花が咲いて生命が蘇ります。

 先ほどのワラの活用展開を考えると、明らかに物質としての循環が実現していることはすぐ分かります。と同時に、新年のしめ飾り、送り火や迎え火、生命としての蘇りの象徴などを見ると、実は精神的な意味合いとしても生命循環が想起されるのではないでしょうか。ワラの文化は、これらが表裏一体に形作られていったと考察できるのです。

 つまり、物質としてだけでなく、精神的にもワラそのものを循環のシンボルにした、あるいは生命循環のアニミズム(霊魂)が宿っていると位置付けたのかもしれません。

――そこから学ぶべきこととはどんなことでしょうか。

古沢 物質的な循環、リサイクルなどはもちろん大切ですが、物質的な意味における「もったいない」という気持ちだけでは、どうしても継続性や定着性が生まれにくい側面があります。功利主義的なモノカルチャー的発想を抜けきれていない。

 しかし、そこに精神的な意味合いが加味され、表裏一体の関係にすることで、ワラの循環的な利用のように継続的かつ多面的な拡がりへと繋がるのです。持続性が、自然認識の根底に結びついた文化として定着していくのです。実際、伝統文化や風習はさまざまな形で長らく根付いてきました。

 物質的な循環は大切ですが、本当にそれを未来に根付かせて発展させるには、人々の継続性とともに精神的な意味づけが重要になります。これがないと、一時的なムーブメントで消えてしまうかもしれません。

 これはリサイクルや循環だけでなく、すべてのことにいえます。物質的な便利さや豊かさ、あるいは論理的な概念だけで物事を進めるのではなく、その根底に精神的な価値が付加されることで文化として定着するのではないでしょうか。

 物質世界の革新は重要ですが、本当にそれが未来の文化として展開するには、裏側の精神的な意味づけが求められます。SDGsのような大きな理想と目標を達成して行く上で必要となる考えです。