――「早い、安い、うまい、腹いっぱい」がコンセプトの山田うどんにとっては、価格設定も重要な戦略です。ここはかなり気を配られますか?
山田 それは気を使います。価格帯からして、うちは毎日来てくれるお客さん、常連のお客さんも多い。そういうお客さんに対して、たとえ10円、20円であっても簡単に「値上げします」とは言えません。安くてボリュームがある、という山田うどんのイメージは壊さないように気を使っています。
――うどんに関しては、いま全国的にコシのある讃岐うどんに人気があります。また山田うどんの本社のある所沢近辺は、コシが強くて太い「武蔵野うどん」というご当地うどんもある。その中に合って、山田うどんのうどんは柔らかいコシのない麺。柔らかめのうどんを提供し続けているのは何か考えがあってのことでしょうか。
うどんは「柔らかめ」がスタンダード
山田 うちはうちなりに工夫をして作ったいい麺を自信をもって提供しているだけですよ。
讃岐うどんのブームがあってから「コシがあるのがおいしいうどんだ」っていう意識を持つ人が増えたのかもしれませんが、関東でも、あるいは全国的に見て柔らかめのうどんのほうがスタンダード。讃岐うどんを食べ慣れたお客さんからみれば「柔らかいな」と感じるようになった、というだけのことなんです。
それに、武蔵野うどんはかなり堅いので、好きな人は好きでしょうが、万人向きではない。歯が悪い人やお年寄りでは食べられないのではないでしょうか。
コシの強いうどんがもてはやされているからと言って、うちが慌てて追いかけたって二番煎じ、三番煎じにしかなりません。うちはそんなことをせず、昔ながらの独自の路線でいこうというだけのことです。
それに柔らかめの麺は、セットにした場合、ご飯もののメニューとも相性がいいですし、うちの麺に親しんで大人になった人たちには安心感や懐かしさを感じてもらっていると思っています。
――五反田TOC店のうどんは他の店舗と違うという噂ですが、何か違いがあるのですか。
山田 うちのうどんは、自家製麺したものをセントラルキッチンで茹でて冷やし、それをひと玉ごとに袋詰めしてチルド状態で各店舗に配送しています。一度茹でた麺だから、お店ではさっと茹でればすぐにお客様に提供できる。麺が柔らかめというのも、このチルド状態にしている間に水分が麺に浸透しているから、という理由もあります。
五反田のお店のうどんは、途中までは一緒ですが、茹でたところで抜き出して、急速冷凍をかけています。ですからそこで水分の浸透もストップしている。他のお店のうどんよりは、コシのある感じになっていると思います。試験的に新しい製法を取り入れています。
――昨年(2017年)暮れには、東京・清瀬市に「県民酒場ダウドン」という居酒屋をオープンし、新業態にも進出しました。
山田 新規の店舗用地を探している中でたまたま駅前の案件がありました。駅前の店なら、山田うどんをやるより、電車の乗降客をターゲットにアルコールをメインに提供することもできます。それで、これも試験的にやってみようかと。
うちがやるお店ですから、やっぱり値段には妥協しません。レモンサワーは4種類用意しましたが、全て290円にしました。センベロ的な店です。それから山田うどんで扱っているメニューを、あえて別の調理方法をして提供しています。餃子も使っているのは同じ餃子ですけど、「ダウドン」では鉄鍋の羽根つき餃子にしています。山田うどん名物のもつ煮込み「パンチ」も、お皿ではなく親子鍋で熱々のものを出しています。まだ試行錯誤の最中ですが、そういうこだわりを持ってやっています。
「どんくさい」のが山田うどんらしさ
――新規に出すお店は外見も少しオシャレになっています。昭和っぽさが山田うどんの魅力でもあったと思うが、「山田らしさ」はどう残していくのか。
山田 山田うどんのいいところは、自分の家で食べているような味や雰囲気というところ。他の外食だと、空間も含めて、非日常的なものを提供していますが、うちは家でも食べられそうな野菜炒め、生姜焼き、その延長線上のものが受け入れられる傾向があります。
だからうちでは、奇をてらったメニューやこじゃれたメニューは動きが鈍い。今年夏に季節限定で出して好評だったサラダうどんも、全然ヘルシーじゃなかった。うどんにから揚げが載っていましたから。そういう「どんくさい」ところが山田うどんらしいところだと思っています。
新規店だからといってメニューの豊富さや店の雰囲気といった山田うどんの良さは外から見て分かるわけではありません。まずはお客様に店に一歩、足を踏み入れていただけるよう、外観や内装に女性客やファミリー客が入りやすいような工夫をしますが、そんな中にも山田うどんらしい「どんくささ」は今後も失わないようにしていこうと思っています。