一介の書店員である自分が、できることがあるとしたらそれは何かと、必死に考えた。

 そのヒントは、本書をもう一度読み返すことで得た。スクールセクハラの被害後、教育委員会が事実を把握した後の対応に関して、疑問が呈されている。あまりに事なかれ主義のその対応は、勇気をもって訴え出た被害者の魂を切り刻む、二本目の刃に思えた。

 事実を知っても、被害者に直接寄り添えるわけではない、僕ら読者ができること。それは、加害者の「監視強化」を担うべき組織に、覚醒を促す活動に取り組むことではないだろうか。

 と同時に、この件に関しては、何かを差し出さなければならない気がしていた。だから、10冊を販売するごとに1冊自腹で本書を買い上げて、47都道府県の教育委員会の教育長へ、主旨を説明した手紙と自分の名刺を同封し、送ることに決めた。この本の利益は、形を変えて被害者を救うことに充てたいと思った。4年間放置した僕なりの贖罪のつもりだ。

 送付先の都道府県を選ぶ過程を「くじ引き」にして、その動画をSNSにアップすることにした。

 面白おかしく、ふざけた風を装いながら本を売ることをモットーとしてきた当書店にしては、珍しく真面目な取り組みだ。お客さんが「引く」といけないという配慮と、少しでもこの問題を広く訴えたい、興味をもって欲しいとの思いからだった。

 送付を始めたのは今年7月下旬。これまでに60数冊を販売したので、6県に送付した。残念ながら今のところ反応はない。

 実は「いきなり送り付けるのは無礼だ」「この重い問題をくじ引きなんかで」とか、苦言をいただくこともあった。だがそれは、問題の取り組みに対する注目の高まりの証左であると、前向きに捉えている。そういった方法論ではなく中身の議論へ、問題の本質の議論へとその矛先が向いて欲しいと、願っている。

 知って欲しい。伝えて欲しい。声をあげて欲しい。

 この本との出会いによって、未然に防げる事件と、絶望を和らげる未来がある。