――今作はもちろんフィクションですが、ここ数年の間に日本の経済や社会に起こったさまざまなトピックス――例えば電気自動車(EV)の開発競争や金融取引の実態、地下カジノの密かな勃興やSTAP細胞事件、派遣切り問題などを随所にちりばめ、巧みにストーリーを組み立てています。それぞれの取材も大変だったのでは。

永瀬 取材は本当にたくさんしました。

 週刊誌の記者を辞めた後、僕は『ゴルゴ13』の原作を書いていたことがあり、そこで最新の経済事情をテーマにするときには専門的な取材をしていました。ゼロエミッションのエコカー開発をテーマにしたこともあります。

 それに週刊誌時代には1週間ごとに違ったテーマを取材し、独自の視点で斬ってまとめる、という処理は得意な方だと思いますね。

EV開発の現場はゴールドラッシュ状態

――『特捜投資家』には主人公たちと対峙する悪が登場しますが、そのモチーフの1つは、作中にも登場する「セラノス」でしょう。自分たちが独自開発した診断器があれば血液1滴で30種類の検査が瞬時にできるという触れ込みで巨額の資金を集めたのに、後にそれが虚偽であることが明らかになった、というアメリカで実際にあった事件ですよね。

永瀬 セラノスの創業者エリザベス・ホームズはスタンフォード大を中退した若くてきれいな女性でした。スティーブ・ジョブズに憧れ、いつも黒のタートルネックを着ていた彼女は時代の寵児となり、800憶円近くの資金を調達することに成功して、時価総額はあっという間に1兆円ほどに。

 ところが、セラノスが確立したと喧伝していた技術も診断器の存在も実は嘘でした。彼女の実像は、自己演出が巧みな大ボラ吹きだったわけです。

 同社には政財界の大物たちが出資したり社外取締役として名を連ねたりしていた。海千山千の彼らがコロッと騙されてしまうくらいですから、ベンチャー企業の実態を見抜くのは簡単ではないのでしょうね。