クライムノベルの名手・永瀬隼介氏の最新作は、自身初となる経済ミステリー小説となった。世の中を欺き巨額の資金を集めるバブルのモンスター。そこに立ち向かったのは、それぞれ別の思惑を抱える個性的な4人組だった。彼らは株式市場と報道の力を利用して巨大な犯罪を潰しにかかるーー。『特捜投資家』は優れたエンターテイメント小説というだけでなく、捜査機関が機能不全に陥り、疑惑まみれの人物が大手を振って跋扈する昨今の世情に対する痛烈な批判の書でもあった。(JBpress)

取材に取材を重ねた労作

――事件をテーマにしたノンフィクション作品やミステリー小説を数多く手がけてきた永瀬さんですが、今作では謎多き個人投資家、元新聞記者、女性起業家、塾経営者というバックグラウンドの違う4人が、それぞれの思惑を抱えながら、企業犯罪の背後に潜む黒幕に迫るというエンターテイメント性の高い経済小説に取り組まれました。永瀬さんにとっても新境地となる作品ですね。

永瀬 僕の作品の熱心な読者の中には「書下ろしの新作がなぜ経済小説なんだ。ミステリーを書いてくれよ」なんて言われる方もいますが、僕は今回の『特捜投資家』は経済ミステリー小説に挑んだつもりなんです。

 今回、経済をテーマに作品を書いたきっかけは、担当編集者からアメリカの金融界を舞台にしたノンフィクション作品を手渡され「こういうものを書いてみませんか」と声をかけられたことでした。

 この数年、日本では企業のお金がらみの事件が頻発しています。東芝の不正会計事件もあったし、スルガ銀行がどうやら「主犯」だった「かぼちゃの馬車」の事件もありました。ところが大企業の不正に捜査機関が切り込むことはまれになったし、新興企業に対する行政機関や証券取引所のチェックも緩くなっている。

 それに最近は、企業とお金の問題に切り込んだ経済小説がなくなった。そこで、企業や投資の現場を取材し、それをもとに小説に仕上げたらどうかと。

永瀬 隼介。作家。1960年、鹿児島県生まれ。メーカー勤務を経て『週刊新潮』記者に。91年にフリージャーナリストとして独立してからはノンフィクションを中心に活躍。2000年、『サイレント・ボーダー』(文春文庫)で小説家デビュー。以後、『閃光』(角川文庫)、『デッドウォーター』(文春文庫)、『カミカゼ』(幻冬舎文庫)などを発表。ノンフィクション作品には『19歳 一家四人惨殺犯の告白』『疑惑の真相 「昭和」8大事件を追う』(ともに角川文庫)などがある。

 僕は週刊誌の記者として事件取材をメインにやってきた人間だし、フリーになってからも事件を扱ったノンフィクションや、クライムノベル、ミステリー小説と呼ばれる作品を書いてきた。だから「自分に経済や金融の世界が書けるのか」と躊躇する気持ちもあったんですが、「そうか、お金に狂った怪物的な人間を描けばいいんだ。人間を描くという点ではこれまでの作業と同じじゃないか」と思い、やってみることにしました。

 髙村薫さんが書かれた『レディ・ジョーカー』という作品がありますが、クライム小説の超一級品。上質なミステリー小説であり、経済小説としても楽しめる。今回の僕の小説も、ストーリーの中で事件も起こるし、謎解きもあります。そういう意味では経済ミステリー小説と捉えてもらってもいいし、クライムノベルでもある。

 また確かに経済小説は初めてでしたが、金融や各産業分野の専門家に取材し、出来上がった原稿もその方たちにチェックしてもらっていますので、クオリティ的にはビジネスマンや経済小説の愛読者の方にも十分満足してもらえるという自負はあります。