その困難を克服し歴史的な一歩を踏み出したのは安倍首相のイニシアティブによることが、陳水扁元総統のインタビュー(産経新聞、2018年9月5日付)で明らかにされている。
わが国には、米国と同様に「台湾関係法」や「台湾旅行法」のような法律を作り、法的整備の面でも台湾を支援しなければならないとの意見が存在し、大きな課題である。
その面で、両国間に意義ある進展をもたらしたのは、いわゆる平和安全法制の制定である。
武力攻撃事態対処法の改正では、これまでの武力攻撃事態等に加え、存立危機事態」(わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態)への対処が追加された。
また、重要影響事態安全確保法は、重要影響事態を「我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態(そのまま放置すればわが国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等)」とし、支援対象となる重要影響事態に対処する軍隊等を、「日米安保条約の目的の達成に寄与する活動を行う米軍」、「国連憲章の目的の達成に寄与する活動を行う外国の軍隊」及び「その他これに類する組織」と規定した。
その際の対応措置として、
①後方支援活動
②捜索救助活動
③船舶検査活動
④その他の重要影響事態に対応するための必要な措置
とし、外国領域での対応措置も、当該外国等の同意がある場合に限り、実施できることとしている。
他方、日米防衛協力のための指針(ガイドライン、平成27年4月)では、そのⅣ項「日本の平和及び安全の切れ目のない確保」B項「日本の平和及び安全に対して発生する脅威への対処」において、「同盟は、日本の平和及び安全に重要な影響を与える事態に対処する。当該事態については地理的に定めることはできない」と記述されている。
以上のことから、平和安全法制は、明らかに台湾有事をカバーしていると解釈され、また、そのような事態に日米が共同して対処することを、ガイドラインは裏づけている。
しかし、このように法的整備ができても、日米台の3か国による平時からの協議、政策面および運用面の調整、そして共同演習・訓練などが行わなければ、有事における有効な機能発揮を期待することはできない。
一方、いきなり有事演習・訓練を始めれば、中国の激しい非難や抵抗を受けることは容易に想像がつく。
そこで、米国の「国防授権法」が求める台湾政府高官・軍高級幹部との交流プログラムの実施、台湾軍の軍事演習への参加招請、西太平洋における台湾海軍との二国間海上訓練などの動向を見極めつつ、
中国も容認せざるを得ない平和目的の活動や措置、例えば、国際人道支援・災害派遣、非戦闘員を退避させるための活動、サイバー空間に関する協力、捜索・救難、海洋安全保障、空域管理のための調整、海空連絡メカニズム(ホットライン)の構築など、実行可能なことから始めたらどうか。
それらが有事体制の基礎を作り、最も現実的に日米台の安全保障・防衛協力を前進させる大きな一歩となるのではないだろうか。