中国は、このような若者に対して、中国大陸におけるビジネス展開、就業、起業、税制など、すべての面において台湾人は中国人と同等の待遇を受け、台湾の学生が中国の学校に入学するにあたっても特段の差別を受けることはない、との懐柔策を提案している。
「甘い蜜の罠」であることは明白であるが、台湾での給料より、中国の特定の地域での給料が2~3倍高いということになれば、中国に機会を求めようとする若者たちがでてきても、不思議ではない。
このように、様々な懐柔策を駆使して、台湾アイデンティティーを弱めようとする中国の浸透工作は、台湾に新たな課題を投げかけている。
以上述べたように、中国は、外交工作、軍事工作、そして対国内工作などを複雑に絡ませながら、台湾国内を混乱させ、「台湾独立」の動きを封じ、中国に対する抵抗意志を弱め、戦わずして台湾統一を成し遂げようと目論む「グレーゾーンの戦い」を執拗に展開している。
そして、和戦両様を常套手段とする中国は、次の手段として武力統一を着々と準備しているのである。
武力統一:最終手段としての軍事侵攻
中国は、台湾への軍事進攻を念頭に、継続的に高い水準で国防費を増加させ、軍改革、統合作戦、武器開発、軍事演習・訓練などを通じて大幅に軍事力を増強している。
一方、台湾の国防費は約20年間でほぼ横ばいであり、2017年時点の中国の公表国防費は台湾の約15倍となっている。
明らかに、中台間の軍事バランスは中国有利に傾いており、台湾の「国防報告2017」は、「台湾にとって軍事的脅威が増大している」との認識を示している。
日本の平成30年版「防衛白書」は、中台の軍事力の一般的な特徴について、次のように分析している。
(1)陸軍力については、中国が圧倒的な兵力を有しているものの、台湾本島への着上陸侵攻能力は、現時点では限定的である。しかし、近年、中国は大型揚陸艦の建造など着上陸侵攻能力を着実に向上させている。
(2)海・空軍力については、中国が量的に圧倒するのみならず、台湾が優位であった質的な面においても、近年、中国の海・空軍力が急速に強化されている。
(3)ミサイル攻撃力については、台湾は、「PAC-2」の「PAC-3」への改修およびPAC-3の新規導入を進めるなど、弾道ミサイル防衛を強化中である。しかし、中国は台湾を射程に収める短距離弾道ミサイルなどを多数保有しており、台湾には有効な対処手段が乏しいとみられる。