日本台湾学会の川上桃子氏の論考『台湾マスメディアにおける中国の影響力の浸透メカニズム』によると、中国の浸透メカニズムのうち、その浸透経路は下記の4つに代表される。

(1)中国で事業を展開ないしは展開を計画している台湾の事業家たちによる、中国政府からの庇護や支持を取り付けるための台湾マスメディアの買収と報道・言論内容への介入

(2)中国の各級政府による台湾での「報道の買い付け」

(3)台湾テレビ局の番組の売買や番組制作面における中国の省・市傘下のテレビ局との提携等の強化→中国側の政治的意図の浸透

(4)中国政府と台湾メディア企業の直接的なコミュニケーションの日常化→メディアによるニュース処理プロセスのなかでの中国の影響力の侵入

 このようにして、新聞やテレビにおいて、「中国を褒めたたえる報道」が増える一方、中国政府にマイナスとなるニュースを意図的に小さく扱ったり、無視したりする傾向が現れている。

 また、中国とドラマ番組の商談を進めていた台湾のテレビ局が、中国側からの示唆を受けて中国に批判的なトークショー番組を打ち切るといった事案が起きている。

 台湾統一を国家目標として掲げる中国の情報戦・世論工作が、マスメディアを通じて日々台湾国民の中に浸透し、ボディ―ブローのように効いていくことになろう。

 これと関連して、台湾の交通部(交通省)は2016年5月、立法院で、「中国からのサイバー攻撃が『戦争に準じる程度』まで深刻化している」と報告したように、中国の台湾に対するサイバー攻撃も常態化している。

 また中国は、硬軟両様の工作を展開しているが、最近、台湾の若者を中国に取り込もうと躍起になっている。

 それは、馬英九政権末期、中台間で調印された「海峡両岸サービス貿易協定」の阻止を目的に、学生を中心とした若者たちが立ち上がった「ひまわり運動」が台湾人意識を一段と高めたからである。

 また、近年、台湾では「天然独」と呼ばれる、「生まれつき自分たちは台湾人であり、中国人ではない」との台湾アイデンティティーをもつ若者たちが増えていることにもよる。