土屋 きっとその回を見た視聴者は「とんでもないことが、今ここで起きてる」と思って受け止めたはずです。それがまさにテレビだと僕は思うんですね。

「田原さん、悪いけど大晦日にもう1回やって」

田原 面白いのはね、月曜日に小田久栄門に謝りに行ったんです。「だますことになって申し訳ない」と。そしたら小田さんはこう言った。「田原さん、悪いけど大晦日にもう1回やって」。

土屋 田原さんや日下さんという個人の力があったからこそ、生放送の途中で天皇制を扱いだすという無茶が出来た。これは組織としてはできませんよね。

 さらに、最初は反対していたのに、「数字も出て反応もいい。だったらもう一回やってくれ」って踏み出せる小田さんのような幹部がいた、というのも『朝生』という番組のパワーの元だったんでしょうね。

田原 『朝生』はいろんなことが出来たんですよ。

 例えば、野坂さんが番組の途中で差別用語を連発するわけ。放送禁止用語だから、司会の僕が放送中に「申し訳ない」と言えば済むことなんだけど、言わなかった。なぜ放送禁止用語があるのか、バックに差別があるからだ、じゃあ差別ってなんだ、ということで被差別部落問題をやろうと考えた。

 ここでも日下さんは偉かった。部落差別問題に取り組む団体はいくつかあって、社会党系の部落解放同盟、共産党系の全国部落解放運動連合会、自民党系の全日本同和会はお互いに仲が良くなかった。顔を合わせれば乱闘になることもある。

 だけど日下氏が、3つの団体と半年かけて交渉してついにOKをもらってきた。それで、被差別部落問題をバーンとやった。

土屋 当時は僕ももう日本テレビに入っていましたが、「次回の『朝生』は被差別部落問題だって」って聞いて、ええって思いましたものね。タブー中のタブーみたいに思われていた問題に正面から切り込んで、各団体の代表を呼んで議論させるわけじゃないですか。その『朝生』が発する熱というか、テレビがやり得る幅を見せてもらったことは、僕らにとってもすごい希望でした。

田原 でも失敗した回もあるんですよ。例えば北朝鮮と韓国の問題やろうとして、北朝鮮系の朝鮮総連、韓国系の民団の代表に来てもらって議論してもらった。正直に言えば、大ゲンカしてもらおうと思った。

 そしたら、意外に仲が良くてケンカになんないんだよね。結局、同じ朝鮮半島出身の民族ということでお互いに理解し合って。そして総連・民団とも一致して「日本が悪いんだ」ってね。

土屋 『朝生』って、ある種すごいトリッキーだと思うんですけど、例えば朝鮮問題を解決しようって気はないわけですよ。

田原 ない。

土屋 要するに「ケンカをしてくれたらテレビとしては面白いだろう」ということですよね。

田原 他のテレビ局がやらないことをやる。これだけ。

土屋 そうなんですよね。