田原 僕のやっていた『サンデープロジェクト』は宮澤喜一さんや橋本龍太郎さんといった現職総理を失脚させた番組だけど、晩年の野中広務さんが言っていました。「田原さんは、国対委員長だ」と。要するに、金曜日に与野党が懸案事項を何とかまとめて玉虫色の結論を出す。それを僕が日曜日にぶち壊している。月曜日からの国会は大混乱だというわけね。
土屋 その田原さんのモチベーションって、別に日本の政治を憂いてるからでもなんでもないわけですよね。「面白い番組を作りたい、他の人とは違う報道番組で作りたい」という思いから相手を挑発するわけですよね?
田原 そう。国会で決まったことをぶち壊してやろうと。
土屋 こんなラジカルことないですよね。
田原 それが面白いでしょ。
土屋 その過程がテレビで見られるから、「テレビが面白い」ってことになるわけですよね。
池上彰さんの選挙特番なんかでも、敗戦濃厚な候補者が、池上さんのインタビュー中継を拒否する過程までリアルに映し出しちゃう。結局、選挙に勝った人を映すより、そこが一番面白かったりする。だから、そのときの常識のテレビじゃないことをやる人が、実は一番テレビ的なんですよね。
田原 僕は「ぶち壊したい」と思うほうだけど、彼は「ぶち壊したい」とは思ってないでしょう。僕とはタイプが全然違うけど、池上さんは何が面白いかはちゃんと心得ている人ですよ。
常識や既成概念をぶち壊した人間が次のテレビを作ってきた
土屋 テレビの世界のものづくりって、そういうことだと思うんです。少なくともテレビの歴史を振り返ると、間違いなく、誰もが「当たり前だ」と思ってる常識や既成概念をぶち壊した人間が、次の時代のテレビの主流を作っていた。そういうということを65年、ずっと繰り返してきたわけだから。
田原 今、テレビがヤバいのは、どうもぶち壊す人間があんまり出てこないことなんですよ。ぶち壊さなきゃ、新しい時代は来ないですよ。
土屋 田原さんは東京12チャンネルで「こんなもんテレビじゃない」って言われたはずだし、僕も『電波少年』の初期は「こんなもんテレビじゃない」って言われた。でも実はそれが次のテレビだった。
だから今、「こんなもんテレビじゃない」って怒られてる番組があったら、多分それが次の時代のテレビですよ。それが視聴者とつながったときに、「こういう番組を待ってたんだ」って受け取られる。
そうなるまでは、周囲の98%ぐらいの人間が「こんなもんテレビじゃない」って邪魔するかもしれないけど、そこを突破して抜け出していく隙間をどうやって作るか。そういう力も必要になると思います。
田原 土屋さんの『電波少年』の後、日本テレビでもああいう斬新な番組が出なかった。なぜですか?
土屋 なんでですかね。みんな頭が良くなりすぎちゃったんですかね。
田原 僕はこう思う。ディレクターたちが、「偉くなりたい」と思うようになったからじゃないかって。土屋さんは、偉くなろうって全然思ってないでしょう?
土屋 それは田原さんと同じですよ。田原さんもテレビ東京に昇進しないままずっと最前線にいようと思っていたんですよね。
田原 僕がテレビ東京辞めたのは42歳の時だってけど、その時、僕の同期で、一番出世した男は部長になっていた。まあほとんどは課長か係長。僕だけ平社員だった。
これは、当時のテレビ東京の暗黙の了解でね、「田原は勝手なことをやってもいい。でも、偉くしない」っていうことになっていた。
土屋 でも面白いことやってた田原さんのDNAって、テレビ東京のDNAとして残っていると思う。だから、今のテレビ東京の個性的な番組があるんだと思うんですよね。
田原 テレビは面白くなかったら滅びますからね。週刊誌だってそう。最近、週刊誌もつまんない。まともにケンカしているのは『週刊文春』くらいじゃない。
土屋 それはテレビと同じで、売れそうな記事を狙いに行って、「こういうネタがウケるんですよね」ってやってるうちはダメだと思うんです。そうじゃなくて、「他の雑誌がやってないことをうちはやるんだ」っていうことを貫ける雑誌が次の時代の週刊誌だと思います。
田原 今や週刊誌のウリが健康問題だからね。週刊誌を読んでいるのが年寄りばかりだから、健康ものは売れるし、安全なんだ。どこからもクレームは来ないし。
土屋 テレビでも週刊誌でも、ターゲット層に合わせにいくというか、「こういうことですよね」つってご機嫌伺いに行くみたいな番組や記事を作っても、絶対に未来はないと思います。それは滅びへの一歩になっているということを、作り手側の人たちは強く意識してほしい。
田原 その通りだよ。せめてわれわれは頑張ってぶち壊していきましょう。
土屋 はい(笑)。