それは、至極当たり前のことだ。

 目前に試合を控えている。トーナメントを勝ち進んでいる。チームも選手も勝利だけを目指し戦うわけだから、そこであえてネガティブな要素を口にする必要はない。内心では不安を抱えていても、表面では前向きな自分を演じることで、闘争本能をより上昇させたいはず。だから彼らは、無意識に言霊の力を信じている、信じなければならないのだ。

 大阪桐蔭には、そのような自分との“駆け引き”は存在しない。

 準決勝で済美に勝利した直後の取材で、根尾に「プレッシャーとどう向き合っているか?」と質問を投げたときだ。彼は自らでその意味を咀嚼し、こう言ってのけた。

「受け入れる……そうですね、もちろんプレッシャーとは向き合ってはいますけど、だからといってできもしないことはできないですから。今日もバッティングがよくなかったから、振りにいっても打ち損じたボールはありましたし。そういうときは、タイミングの取り方とか、そのとき自分にできることをしっかりやろうと思っています」

 状態は万全ではなかったわけだが、この試合で2安打と最低限の結果を出せたのは、根尾が自分と向き合っているからである。

西谷監督が信じた「地に足のついた」野球

 それは、「根尾だから」ではない。準決勝で3安打をマークした1番の宮崎仁斗も、「調子がよくない」と述べていたひとりだ。

 準々決勝の浦和学院戦で、渡邉勇太朗のスライダーへの意識が強かったあまり、ボール球にも手を出してしまったのだと、宮崎は不調の要因を説明し、その場合の打席での思考も教えてくれた。

「正直、まだ調子はそんなによくないですけど、悪くても悪いなりに修正していかないといけないんで。1打席目にバットをうまく出せなかったらどうすればいいか。ボール球に手を出していたらどうするかとか、1打席、1打席、考えながら対応していくしかないというか。だからといって、それがすべての答えにつながるわけではないんで、自分でも何とも言えないところがあるんですけどね。今日はたまたま、浮いた球をしっかり叩くことができたのでヒットが出ましたけど、明日はどうなるか、まだ自分でもわかりません」

 宮崎は自身のアジャスト能力を決勝の舞台でも発揮した。2打席目で高めストレートを打ち損じセカンドフライとなった反省をもとに、3打席目では内角に甘く入ったストレートをレフトスタンドに叩き込んだ。そして、4打席目も高めに浮いたストレートをセンター前にはじき返した。2安打、1本塁打、4打点。リードオフマンのパフォーマンスが、打線の活性剤となった。