朝子のように実際に行動に移すかどうかは別として、安心や平穏を感じさせてくれる日常の生活とは別に「あの時のあの人はどうしているのだろう。あの人といま一緒にいたら、どうだったのだろうか」と自由な学生時代のワクワクしていた非日常的な恋愛をふと思い出したり、なかには心のよりどころにしている人もいるだろう。

ヒロインの行動がうらやましくはないのか?

 そういう人にとっては、朝子の行いは「うらやましい」ものであり、決して、否定できるものではない。失ってからわかる、あの時代ならではの輝き。朝子にとって麦はそういう存在なのだと思う。

 いまの若い世代の人たちはそんな恋愛をすることがあるのだろうか。冒険を味わうことなく、最初から安定を目指し、麦を知ることなく、亮平を手に入れようとしているのではないか。だとしたら、彼女たちが朝子に共感することは一生、ないのかもしれない。

 カンヌから凱旋した恋愛映画『寝ても覚めても』。意外なことに若いヒロインの心情は、若い女性ではなく年配の、そして女性よりもきっとロマンチストであろう男性の方が共感できるような気がしてならない。

 果たして、ヒロイン朝子の揺れ動く心情を目の当たりにして、あなたなら、どんな感想を抱くだろうか。

©2018 映画「寝ても覚めても」製作委員会/ COMME DES CINÉMAS

 

『寝ても覚めても』

9月1日(土)より、テアトル新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷シネクイントほか全国公開 

キャスト/東出昌大、唐田えりか、瀬戸康史、山下リオ、伊藤沙莉、渡辺大知(黒猫チェルシー)/仲本工事/田中美佐子
監督:濱口竜介
原作:柴崎友香『寝ても覚めても』(河出書房新社刊)
脚本:田中幸子、濱口竜介
音楽:tofubeats
主題歌:tofubeats「RIVER」(unBORDE/ワーナーミュージック・ジャパン) 

配給:ビターズ・エンド、エレファントハウス

公式サイト:http://netemosametemo.jp/