「ディールの達人」はディールで大損した!
ドナルド・トランプ米大統領と金正恩朝鮮労働党委員長との「歴史的な握手」の映像は世界中を駆け巡ったが、それから数時間後、世界中のメディアはこぞって「世紀のから騒ぎ」だったと酷評した。
北朝鮮の「完全で検証可能で不可逆的な非核化」(CVID)の具体的な道筋はおろか、米朝対話が続いている間は米韓軍事演習を一方的に中止するとまで約束してしまった。
これが不動産物件のディール(取引)だったら売り手、つまり金正恩委員長に完全に値切られて、大損したようなものだ。
「ディールの達人と豪語するが聞いてあきれた」(米民主党幹部)という声がワシントンでは聞かれる。
シンガポールから借りた中国民間航空機で帰路を急いだ金委員長は機内で祝杯を挙げていたのではないだろうか。
会談前から米メディアが注目した「人権問題」の扱い
曖昧な核廃絶を巡る取引とともに米メディアが会談前から注目していたのが「人権問題」だった。
むろん日本人拉致問題も含まれるが、北朝鮮の自国民に対する「ヒトラー級の筆舌に尽くしがたい弾圧、虐殺」(2014年の国連報告)だ。自分の政治生命に対する脅威を取り除くためには親族まで処刑してきた。
会談後、シンガポールで行ったABCテレビとのインタビューでもこの点を突かれるとトランプ大統領は答えに窮した。
「あの男を信頼できるのか」との追い打ちをかけられるや、「私は彼を信頼している。だが、1年後に信頼しているかと聞かれたら変わるかもしれない」と本音を吐露した。