同氏は、新政府に経済政策などで指針を仰ぐため、マハティール新首相が発足させた国際的に著名なマレーシアのベテラン専門家を結集させた「上級専門家評議会」の一人。
マハティール首相は、「総工費550億リンギは、融資を行う中国輸出入銀行から、受注している中国交通建設(CCCC)に直接支払われ、中国への債務額は1000億リンギに膨れ上がる」と激高する。
「HSRなどの大型プロジェクトを中止すれば、国の債務の5分の1を解消できる」(マハティール首相)という。
マハティール首相の最大の目的はマレーシアの国益だ。その意味では今回の高速鉄道計画中止は、国内では歓迎され、「大英断」と国民からも高い支持を得ている。
かつて、ケニアの鉄道を管轄する大臣が「JRの新幹線は世界一素晴らしかった。しかし、我々に必要だったのは、物資も輸送できる鉄道網だった」と述べ、結局、中国が在来線の鉄道を張り巡らせてしまった。
マレ-シアに限らず東南アジアの経済成長を過大評価する中でのインフラ整備は現実的ではない。ミャンマー、カンボジアでは道路などのインフラが未整備の中、高速鉄道の有用性には疑問で、ベトナムやタイも、首都圏と地方の格差は大きい。
国益を重んじ、基本的なインフラ整備と治安維持の安定が最重要で、そうした意味ではマハティ-ル首相の決断は英断だったといえる。
また、日本も新幹線にこだわらず、日本の技術移転を国内鉄道への刷新などに向け、発想転換するチャンスかもしれない。
中国にとっては、“マハティール・ショック”で、一帯一路戦略の実現に暗雲が立ち込め、その実現に赤信号が灯り始めたのは否めない。
(取材・文 末永 恵)