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(文:塩田 春香)

私の夢まで、会いに来てくれた -- 3.11 亡き人とのそれから
作者:金菱清(ゼミナール)
出版社:朝日新聞出版
発売日:2018-02-20

 人は亡くなれば、会えなくなる。話しかけても応えてはくれないし、手を触れることもできなくなる。喪失が突然であればなおのこと、現実を受け入れるのは難しい。私自身、交通事故や突然の病で親しい友人を亡くしたが、10年以上経った今でも、背格好の似た人を見かければ無意識に目で追ってしまう。きっとこの痛みは私が死ぬまで続くのだろうが、それでいいと思っている。

 2011年のあの日、何万人もが同時にそんな突然の喪失体験をすることになるとは、誰が想像しただろう。

 もう一度会いたい。どうしても聞きたいこと、伝えたいことがある。でも、どうすれば亡くなった人と交信できるのか?――そのひとつの答えが、「夢」である。

 これまでにも『3.11 慟哭の記憶』『呼び覚まされる霊性の震災学』などを刊行してきた東北学院大学・金菱清教授のゼミによる「震災の記録プロジェクト」。その5冊目となる本書。学生たちが震災で家族や友人などを亡くした人たちに取材して、故人が出てきた夢について語ってもらった記録集である。

故人が夢で語りかける

 警察官だった息子を亡くした青木恭子さんは、震災から1か月ほどして、生前と変わらぬ普段着姿の息子の夢を見た。

“恭子さんは、謙治さんの手をぐっとつかみ、「なんで? なんで? どこ行ってたの! 帰ってこなくちゃ駄目じゃない」と叫んだ。(中略)
謙治さんは恭子さんの必死の問いかけに、「冗談だから。俺がいないこんな状況なんて、冗談なんだからね」と答えた。(中略)
謙治さんを失ってから、多くの人が恭子さんを慰めてくれたが、どの言葉にも癒されることはなかった。しかし、夢の中で自分がこの世にいないことは冗談だと語る謙治さんの言葉は違った。一番、聞きたかった言葉だった。誰の言葉より心に響いた。
そうだよね、あんたがいないなんて、ありえないよね。”

 震災からこの聞き取りまでに6年の歳月が流れていたが、青木さんの喪失感は変わらないという。瓦礫が撤去されて交通機関も復旧し、一見、被災地の「復興」は進んでいるように見える。だが、喪失を経験した人たちの「心の復興」は、それに追いついているのだろうか。心はおいてけぼりのまま「復興、復興」と世の中は進み、時が経つほどに「いつまで立ち止まっているのか」と苦しい胸中をさらけだすことができなくなり、苦しんでいる人も多いのではないか?